美しき愚かものたちのタブロー

書影

著 者:原田マハ
出版社:文藝春秋
出版日:2019年5月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 ワクワクする物語。読み終わって感謝の気持ちが湧いた本。

 主たる主人公は田代雄一。終戦後の日本を代表する美術史家。東京美術学校教授、帝国美術院附属美術研究所所長などを歴任。第二次世界大戦後にフランス政府に接収された「松方コレクション」の返還交渉の任にも当たった。物語は、その返還交渉に向かう場面、それを時の内閣総理大臣である吉田茂から依頼されるエピソードから始まる。

 先に田代のことを「主たる主人公」と紹介したけれど、この物語は何人かの群像劇のようになっている。1953年と1921年を行き来しながら、さらに登場人物の回想などが挟まって時代と場所を飛び越える。その間には二度の世界大戦があり、とても壮大な物語になっている。

 群像劇を構成する人物の一人が松方幸次郎。「松方コレクション」という、傑出した美術コレクションを遺した人物だ。その数は西洋美術が数千点、日本の浮世絵が約8千点。田代は松方のアドバイザーの立場でコレクション収集に同道している。物語は、松方がどのような動機でこれだけのコレクションを収集したのかを強く印象付ける。

 私は美術鑑賞が好きで、機会があれば美術館に足を運ぶ。すると「松方コレクション」という言葉を度々目にする。国立西洋美術館がまとまったコレクションを収蔵していることも知っている。しかし、そのことについてそれ以上知ろうとは思わなかった。

 この本で多くのことを知った。松方の動機は「日本に美術館を創る」ということ。「ほんものの絵を見たことがない日本の若者たちのために、ほんものの絵が見られる美術館を創る」。そういう想いを知った。また、その想いが国立西洋美術館の設立にもつながっていることを知った。

 もちろん本書はフィクションで史実ではないけれど、著者がいつも巻末に書くように「史実に基づくフィクション」だ。読み終わってから、慎重に史実を調べてみたけれど、大きな方向性は変わらないし、私の想いも変わらない。

 私の美術館巡りは、100年前の松方幸次郎につながっている。本書の物語のような人々の尽力がなければ、気軽に絵を見に行くこともできなかったかもしれない。感謝。

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