麒麟児

著 者:冲方丁
出版社:KADOKAWA
出版日:2018年12月21日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「腹が据わっている」というのは、こういうことだな、と思った本。

 幕末の江戸城無血開城を導いた、勝海舟(麟太郎)と西郷隆盛(吉之助)の会談とその前後を、勝海舟の視線で描いた物語。

 物語は、天皇が自ら発せられた詔によって、官軍五万が幕府軍を討伐するために、江戸に向けて進軍してくるさなかに始まる。幕府の軍事取扱であった勝は、官軍の東征大総督府参謀であった西郷に届けるべく、山岡鉄太郎と益満休之助の2人に書簡を託す。山岡はかつての尊王攘夷派の志士で、益満はなんと薩摩のスパイだった男だ。

 物語の進行は史実に沿っていて、その枠の中で勝と西郷のやり取りと、勝の心持ちが自由に創作される。勝と西郷、西郷に遣わされた山岡や益満を含めて、4人の主要な登場人物がとにかく熱く、そして腹が据わっている。「禅の息吹き」という呼吸法が随所に出て来るのだけれど、気力をためる時も激情を抑える時も、その呼吸法で己をコントロールする。男のドラマにしびれる。

 明治元年が1868年で、昨年は「明治150年」などといって明治維新が注目された。そうでなくても日本人は幕末-明治維新のドラマが好きなようで、この20年ほどは2年から数年おきに大河ドラマになっている。「新しい時代の始まり」を感じられるからだろう。

 その中で本書に特徴的なことがある。官軍は私利私欲から「必要のない戦い」をしている、とみている点だ。それは主人公である勝の視点が「幕府より」であったからではなく、「高い位置から俯瞰した」視点を持っていたからのようだ。その視点を持っている人は稀だった。官軍からの使いと勝の印象的な会話が、それを物語っている。

勝:おれの主人はね、日本国民なんだ(中略)このあとの国を担ってくれるはずの、全ての日本人さ。
官:で、その日本人というのは、具体的に、どの藩とどの藩の者のことをおっしゃるのですか?

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