武器としての世論調査

著 者:三春充希
出版社:筑摩書房
出版日:2019年6月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 政治に関して感じる違和感の理由が胸に落ちた本。視界がクリアになった感じ。

 著者は元々自然科学の研究者を目指していたけれど、原発事故以降の政治状況に問題を感じて、社会のあり方を模索するようになった。本書では、自然科学における洞察やデータ処理の方法を活かして、世論調査をはじめとする政治に関する様々な調査データを、精緻に分析して分かりやすく示してくれる。

 冒頭から16ページがカラーの口絵で、これがもう本書の非凡さを表している。私は「調査」というものに「人一倍に気にはなるけれどもまったく信用できない」という捻じれた認識を持っていて、本書のタイトルを見てもあまり興味を感じなかった。
 ところが表紙をめくったところにある「内閣支持率」を表した日本地図を目にした途端、グィっと引き込まれてしまった。この図は、著者自身がネットで公開している。下にリンクを掲載するので、ぜひ見て欲しい。

 内閣支持率は「西高東低」。この時の全国の値は43%前後なのだけれど、県別にみると28%から56%の間でバラつきがある。安倍総理の地元の山口県が一番高く、富山県、石川県、和歌山県が高い。対して東北、北海道、長野では30%台前半、沖縄が28%だ。

 私が感じていた違和感とは、報道各社が発表する支持率が「自分の実感」と合わないこと。それから、国政選挙のたびに与党が「圧勝」すること。念のために言うと「私の支持したところが勝たないのはおかしい」などと言っているのではない。「客観的にみて」これぐらいだいろう、という感触と大きく違う、という意味。(「客観的」が偏っているのでは?という指摘は甘んじて受けるけれど)

 前者の「内閣支持率」への違和感については、口絵の日本地図で十分だった。少なくとも私が住んでいる県の値は私の実感と合っている。「客観的」なんて言っても、遠い他県のことまでは分からない。

 後者の「与党の圧勝」についても、本書は丁寧にひもといてくれている。「戦略的投票」のための、選挙報道の情勢表現の分析があって、これは有権者がみんな身につけて欲しい知識だ。その他にも世論調査や選挙報道やの投票結果の分析の、有益な知見がたくさん。いい本に出会った。☆5つ。

著者が公開している「内閣支持率」の日本地図へのリンク
著者が運営する「みらい選挙プロジェクト」のサイト

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です