任侠書房

著 者:今野敏
出版社:中央公論社
出版日:2007年11月25日 初版 2019年7月5日 改版第8刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 任侠の道は厳しいと思った本。

 「任侠」シリーズとして好評で4作が既刊、5作目がオンラインで連載中らしい。本書はその第1弾。

 主人公はヤクザの阿岐本組の代貸の日村誠司。阿岐本組組長の阿岐本雄蔵は「ヤクザ者は、縄張り内の素人衆のおかげで生活できている。素人衆に信用されてこそ一人前の親分」が持論。今どきのヤクザの組長らしからぬ考えだけれど、ヤクザではあるが暴力団ではない、そういうことだ。

 阿岐本組長には、もうひとつ「らしからぬこと」がある。文化人に憧れていて「いつか自分も文化人と呼ばれたい」と密かに願っている。そんな阿岐本が、六分四分の兄弟の盃を交わした別の組の組長が債権を手に入れた、出版社の話を聞きつけて、なんとそこの社長に納まった。物語はそこからスタートする。

 ヤクザに債権が渡るくらいだから、その出版社の経営状況はよくない。週刊誌も文芸書も作っているので、そこそこの規模はある。ただ、出版業界全体が落ち込む中で思うように売れない。素人がどうにかできるものなのか?

 もちろんどうにかできた。「まぁ物語だから」と言えばそれまでだけれど、何とかなる理由が、それなりに理にかなっていて面白い。ヤクザの親分ならではの情報ソース、ヤクザならではのコネクション、ヤクザならではの人の起用法、ヤクザならではのトラブルの解決法。

 中にはヤクザとは関係ないこともある。フィギュアに詳しい若い衆が町工場の技術に目を付けたり、優男の組員がグラビアのいいアイデアを持っていたり。ヤクザの組員にもそれぞれいろいろな才能があるわけで、やっぱり企業も組織も「人ありき」なのだ。

 面白かった。昨今は暴力団の抗争が激化しているのか、市民生活も脅かされる事態になって、ヤクザが活躍する物語を面白がっていていいのか?という考えが頭をよぎる。まぁ阿岐本組のような組なら、フィクションの中でぐらいはいいか、と思い直す。

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