マチネの終わりに

著 者:平野啓一郎
出版社:毎日新聞出版
出版日:2016年4月15日 第1刷 12月25日 第13刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

「分かってもらえる」という気持ちは、強い結びつきにつながるものなのだな、と思った本。

2017年の渡辺淳一文学賞受賞、2019年11月に福山雅治さん、石田ゆり子さんをキャストとして映画化された。

主人公は蒔野聡史、クラシック・ギタリスト。物語の始まりの時には38歳。18歳の時に「パリ国際ギター・コンクール」で優勝した天才。20年経ってもその才能は衰えることはなく、2006年のその年は、国内で35回、海外で51回のコンサートをこなし、盛況のうちに最終公演日を迎えていた。

その最終公演日。サントリーホールで行われたコンサートの後に、蒔野と出会った女性が小峰洋子。40歳。フランスのFRP通信の記者。蒔野のレコード会社の担当者から紹介された。蒔野がその日唯一満足できた曲を洋子が褒める、それで気持ちが通じた。互いに特別な思いを感じた。

洋子には婚約者がいた。それは紹介された時からそう明かされていた。それでも蒔野の想いは募る。さらに、コンサートの直後に洋子は取材のためのイラクに行ってしまう。2003年に多国籍軍が侵攻し、その後内戦状態になっていたイラクに...。

物語が描くのは、この2006年から2012年まで。その間に、蒔野の身にも洋子の身にも、本当にいろいろなことが起きる。想いを募らせていたのは蒔野だけでなく洋子もで、互いの想いは相手にも伝わる。それでも行き違いが起きる。偶然の積み重ね、少しの無関心や無作為、人の心の脆さなどによって。歳を重ねた大人同士のラブストーリー。嘆息なしでは読めない(時には強い憤りも)。

それにしても、いい歳をした男女のくっついたり離れたりが、どうしてこんなに美しく感じるのか?これは著者の文章が織りなす美しさなのだろう。「よく晴れた朝」と書けば済むところを、「空の青さが、忙しなく家を出た人々の口を、一瞬、ぽかんと開けたままにさせるような」と描いて見せる。時折あるこんな表現も印象に残った。

これは後世に残る名作かも?と思った。

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