満天のゴール

著 者:藤岡陽子
出版社:小学館
出版日:2017年10月31日 初版第1刷 2018年1月16日 第2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

「ゴオルまであとどのくらいやろか」という登場人物の言葉が、いつまでも心に残った本。

以前に読んだ「テミスの休息」が、沁み入るように良かったので、同じ著者の作品を読んでみた。

主人公は内山奈緒。33歳。夫から不倫の上に離婚を迫られて、家出のように実家に10歳の息子の涼介を連れて帰ってきた。実家は丹後半島の北端。京都から特急で2時間ほど、そこから路線バスでさらに2時間。11年前にあることから「この町に戻ってくることは、二度とないだろう」と決めて出た町だ。

実家の辺りは、奈緒がいた頃から廃屋が点在する寂れた土地だったけれど、さらに荒廃が進んでいた。特に医療はひっ迫していて、地域で唯一の総合病院がなんとか支えている状態。物語は、奈緒の父の耕平の入院を機に、地域医療の現場に身を置くことになった奈緒と、そこで出会った人々やその人生を描く。

ところどころで胸が苦しくなった。56歳の私には、父母のことを考えると他人ごとではないのだ。病院から車で1時間とか2時間とかかかる集落に、独り暮らしの老人がたくさんいる。末期癌の88歳の男性、肝硬変の92歳の女性..。訪問看護があり、医師の往診もあるけれど、奈緒が「あのまま置いてきて大丈夫なんですか」と言うように、心配でならない。

このような決して楽観できない状況でも、物語は明るさを失わない。それは、10歳の涼介の存在のおかげでもあるし、患者である老人たちの前向きな心の持ちようにもよる。そして「満天のゴール」というタイトルの意味が分かった時、小さな灯がともったように、心がほんのりと温まる。

最後に。最初と最後のページに「ゴール」という言葉が出てくる。この2つの同じ言葉の重みの違いが際立つ。

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