コロナ後の世界

編 者:大野和基
出版社:文藝春秋
出版日:2020年7月20日 第1刷 8月5日 第2刷 発行
評 価:☆☆(説明)

 「後世の歴史家は、コロナ以前/コロナ以後で年表に一線を画すかも」と、本書には書いてあるけれど、たぶんそんなことはないと思った本。

 本書は、新型コロナウイルスが国境を越えて蔓延する中で、世界と日本の行く末「コロナ後」について、偉い学者の先生6人に聞いてみたもの。「これから我々はどんな未来に立ち向かうのか、世界史的、文明史的観点から大胆に予測する」と、紹介文にある。

 偉い先生6人とは次のとおり。ベストセラー「銃・病原菌・鉄」の著者でUCLA地理学教授のジャレド・ダイアモンド氏。ホーキング博士に賞賛された「LIFE3.0」の著者でMIT教授のマックス・テグマーク氏。「人生百年時代」を提唱した「ライフ・シフト」の著者でロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授。
 それから、進化心理学の第一人者でハーバード大学のスティーブン・ピンカー教授、GAFAを「ヨハネの黙示録の四騎士」に例えるニューヨーク大学のスコット・ギャロウェイ教授、最後は、ノーベル経済学賞受賞者で金融緩和やインフレターゲットを主張する「リフレ派」の代表ポール・クルーグマン氏。

 それぞれの方にはそれぞれの得意分野があって傾聴に値する。ダイアモンド氏が「日本にとって人口減少や高齢化より韓国・中国との関係の方が大きな問題」と喝破したのはなるほどと思った。グラットン氏の高齢社会での働くことの考え方は、定年が見えてきた私にはとても参考になった。ピンカー氏の認知バイアスを視点に据えた社会の見方は、パニック気味の世の中を落ち着かせてくれるかもしれない。

 ただ「コロナ後」を言うためには「コロナ下」のことも言わなければならないけれど、現在進行形の事柄に触れるのは気の毒だったかもしれない。ダイヤモンド氏が、新型コロナウイルスの脅威に対して「大きく二極化していたアメリカ人が一丸となって立ち向かおうとした」と語っておられる。一時期はそんな雰囲気の時があったかもしれないけれど、大統領選を前にアメリカの分断は深まるばかりに見える。

 本書を読んでいて違和感を感じた。リンダ・グラットン氏が女性でイギリス人である以外は、全員が男性でアメリカ人(出身はスウェーデンやカナダの人もいる)。そしてグラットン氏も含めて全員が白人の大学教授。半数の3人が経済学者なのも気になる。私は上に敢えて「偉い学者の先生6人」と書いたけれど、本には「現代最高峰の知性六人」と書いてある。「現代最高峰の知性」がこんなに偏りがあるのか(そんなはずない)、というのが違和感の正体だった。

 では誰に聞けばいいの?と聞かれると「宗教者でどなたか」ぐらいで、具体的には誰も思いつかない。それが私と文藝春秋社の限界のようだ。
 

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