不平等と再分配の経済学

書影

著 者:トマ・ピケティ 訳:尾上修悟
出版社:明石書店
出版日:2020年2月28日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 分量を目算して軽い気持ちで手を出したら、読むのがけっこうたいへんだった本。

 著者のトマ・ピケティさんはフランスの経済学者で、数年前に「21世紀の資本」という著書が世界的なベストセラーになって、日本でも知られるようになった。その本は、注釈を含めて700ページを超える大書で、告白すると、私は読み通すことができなかった。本書は200ページあまりで「これならば...」と思って読んでみた。

 本書のテーマは、「不平等」と「再分配」によるその解消。

 本書で扱う「不平等」は大きく2つで、「資本」と「労働」の間の不平等と、「労働所得」の不平等。前者は、機械や設備などの「資本を持つ資本家」と「労働力を提供する労働者」の間の不平等。後者は、高賃金の労働者と低賃金の労働者の間の所得の不平等だ。

そして「再分配」も2つ。「直接的」再分配と「財政的」再分配。前者は、不平等で劣位にある労働者や低賃金の労働者の「賃金を増やす」方法で、後者は、一旦課税によって資本家や高賃金の労働者から徴収して、それを劣位にある労働者に分配する方法。

 本書は、この2つの「不平等」のそれぞれについて、どちらの「再分配」が望ましいのかを、国別のマクロな統計を駆使して検討する。

 ページ数に比して読むのに時間のかかる本だった。元の文章がそうなのか、訳文がそうなのか(「訳者解題」を読むと両方の可能性がある)、複雑な構造の文章で、理解するのに集中を要する。

 「このような~」「これらの~」と、前の段落を受けての深堀りが繰り返されるのはまだしも、「しかし...ところが...」と「逆接の逆接」があったり、けっこう長い論説の最後に、「しかしこのことが...実現されるとは考えられない」と否定してみたり。(関西人なら「考えられへんのか~い!」とツッコむと思う)

 最後に、本書のテーマとは別に感じたことを。統計による国際比較をしているのだけれど、英国や米国(著者は「アングロ・サクソン諸国」と称している)と、フランスではずいぶん様子が違い、ドイツもまた違う(日本にはほとんど触れられない)。日本語に訳される海外の経済書は、おそらく圧倒的に米国(か英国)のものだと思う。国によってこうも違うのであれば、この偏重は問題だと思った。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です