犬がいた季節

著 者:伊吹有喜
出版社:双葉社
出版日:2020年10月18日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品.

 「そうそう、あの頃はそうだった」と思った本。

 舞台は三重県四日市市にある八稜高校、県内有数の進学校。物語の主人公は、その学校の昭和63年度、平成3年度、6年度、9年度、平成11年度のそれぞれの年の卒業生。そしてもう一匹、その間に学校で飼われていた犬。

 犬の名前はコーシローという。昭和63年の夏休み明けに学校に来た。美術部の無口な生徒、早瀬光司郎の席にちょこんと座っていたところを、生徒に見つけられた。「コーシロー、お前、ずいぶん小さくなっちゃって」と、盛り上がって、コーシローと名付けられ、曲折を経て学校で飼うことになった。

 物語は、2,3年ごとに卒業生の一人を主人公として描き、その様子をコーシローの視点から見た、コーシローの気持ちを交えながら進む。主人公たちは高校3年生であるから進路のこと、そして家庭のこと、友達のこと、恋愛のこと、多くの悩みや葛藤を抱えていて、それが時には瑞々しく、時には張り詰めた緊張感をもって描かれる。

 読み終わってとても満ち足りた気持ちになった。年代の違う5つの物語が並んでいるのだけれど、同時1つの切ないストーリーが進んでいる。そしてコーシローは鼻がいい。恋する人の匂いが分かったりする。本人たちが口にしない、時にはそれと気づいていない気持ちまで、コーシローには分かる。言葉が話せればアドバイスもできるが、犬の身ではそれも叶わない。

 もうひとつ、本書の楽しみを。物語の年を明らかにして、その時々のトピックが描きこまれていることで、その時代の自分を思うことになる。昭和63年はソウルオリンピック、BOØWYの解散、平成の始まり。平成3年はF1日本グランプリ、ジュリアナ東京、平成6年は翌1月の阪神・淡路大震災..。昔を思いながら高校生の物語を読んでいると、この物語の始まりより何年か前の、自分の高校生の時のことまで思い出した。

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