心淋し川

著 者:西條奈加
出版社:集英社
出版日:2020年9月10日第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「衣食足りて礼節を知る」という言葉があるけれど、衣食さえ足りていれば、幸せを感じるかどうかは気の持ちようなんだな、と思った本。

 2020年下半期の直木賞受賞作。本屋大賞ノミネート作品。

 タイトルは「うらさびしがわ」と読む。つまり「なんとなく淋しい川」という意味。それは江戸時代、千駄木町の一角の大名屋敷の崖下にある流れのない淀んだ川の呼び名で、その両岸の狭い町「心町」が物語の舞台。主人公はその町の住人たち6人が、章ごとに入れ替わる。

 針仕事で家計を支える19歳の「ちほ」は、酒を飲んで管をまく父と繰り言ばかりの母と暮らす。29歳の「つや」は住む長屋は、青物卸の旦那が妾4人を共同で住まわせている。若いころは名店で修行を積んだ料理人の「与吾蔵」は、安くて旨い飯を食わせる料理屋を開いている。

 身体の不自由な31歳の息子の世話をして暮らす「吉」は、以前は日本橋の大店のおかみさんだった。以前は根岸の遊郭の遊女だった「よう」は、大した腕もなく要領も悪い亭主と喧嘩ばかり。この町の差配を務める「茂十」は、この町に来て12年。この茂十はすべての章に登場する。

 しみじみとした感慨を感じる。登場するほぼ全ての人が貧乏で、暮らしに問題を抱えている。そもそもこんな崖下の窪地の町に住んでいることにも何か理由がある。それは「流れ着いた」という表現が相応しく、「心淋し川」のように人生が淀んでいる。

 でも、そんな人たちにも暮らして行ける場所が必要。「何があったのかきかぬのが、心町の理ですから」と、茂十の先代の差配が言う。与吾蔵の前に料理屋を営んでいた兄貴分は、この町の人は「あたりまえを盾に、難癖をつけるような真似はしねえ」と言う。だからみんなこの町でなら暮らして行ける。

 ちょっとした仕掛けもあって楽しめた。秀作だと思う。

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