沈黙の春

著 者:レイチェル・カーソン
出版社:新潮社
出版日:1974年2月20日 発行 2014年6月5日 76刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 半世紀前の本が、現在の世界にも強く警鐘を鳴らしていることに瞠目した本。

 名著とされているので書名ぐらいは知っている人も多いと思う。私もその一人だった。「知っている」だけじゃなくてちゃんと読んでみようと思ったのは、世界各地で起きている「ハチの大量死」のことを聞いた今から数年前のこと。本書はその時に買ったのだけれど、ながく放置した期間もあって読み終わるまで数年かかってしまった。

 本書は、生物学者でもある著者が、主に害虫を駆除する目的で使用される殺虫剤や農薬の、自然や人に与える深刻な被害を、豊富な実証的データとともに明らかにしたもの。原著「Silent Spring」は、1962年に米国で出版され、日本語訳の出版はその2年後だそうだ。

 第一章に描かれた寓話で、春が来ても鳥の鳴き声もミツバチの羽音もしない、自然が沈黙した町が描かれている。書名はこの様子を端的に表した言葉で、実に印象的だ。今のような農薬の使い方を放置すれば、生命の芽吹きのない春を迎えることになる。それでもいいのですか?という警告の言葉でもある。

 殺虫剤や農薬による深刻な被害は数多く報告されているけれど、その中で印象的かつ示唆的なことをひとつだけ紹介する。1950年代、カリフォルニア州のクリア湖。おびただしい数のカイツブリという鳥が死んだ。そのカイツブリの脂肪組織を分析すると、1600ppmという異常な濃度のDDDという薬品が検出された。

 DDDはブユの駆除のために0.2ppm以下に薄められて散布された。それがプランクトン、魚、鳥と食物連鎖を経て生物濃縮という作用によって、8000倍に濃縮されたのだ。最終的にはカイツブリの雛鳥は見られなくなってしまった。ここのブユは蚊によく似ているけれど血を吸わない(ブユと訳してあるけれど、調べるとどうも「フサカ」という別の科の昆虫らしい)。その無害な昆虫を駆除しようとした。それもただ数が多すぎるという理由で。

 この事例が印象的かつ示唆的な理由は、他の事例は割と殺虫剤を無頓着に使っているのに対し、この事例では「中でも害の少ない薬品を」「水量を計算して(安全なように)薄めて」使っていることだ。安全に配慮していても、思いもよらない結果を招くことがある。特に「(安全なように)薄めて」は示唆的だ。今でも「基準値を下回っていれば安全」とされる。たしか原発事故の処理水の海洋放出も..。

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