ダンゴムシに心はあるのか 新しい心の科学

著 者:森山徹
出版社:PHP研究所
出版日:2011年4月1日 第1版第1刷 8月5日 第1版第3刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「研究って面白いなぁ」と思った本。

 著者は、ダンゴムシやオオグソクムシなどの行動実験を通して「心や意識、私とは何か」を明らかにしようとする研究者。信州大学に在籍して本書執筆の時は助教で現在は准教授になっている。本書は著者の研究成果の一端とその意味を紹介し「心の科学」を展望する。

 タイトルの「ダンゴムシに心はあるのか」は、非常に簡明な問いの文章であるが、その答えは必ずしも明快ではない。「んなものあるわけない」と思う人も、「生き物には心があるに決まっている」と思う人も、結論を急がずに著者の説明を聞くといいと思う。「そういうことなら確かに...」と思うかもしれない。思わないかもしれない。

 まずは「心とは何か」。実はこれが大変に難解な説明になっている。思うに、この「心の定義」がここまで困難なのは、後に「心」を実験で捉えなくてはいけないからだと思う。そのためには観察可能な形で「心」を具象化する必要がある。難解ではあるけれど著者の説明は一歩ずつ進むので、私はなんとか飲み込むことができた。しかしここできちんと説明する自信はない。

 自信がない説明よりも、ダンゴムシの実験を先に紹介した方が分かってもらいやすいと思う。ダンゴムシを出口が複数ある迷路に入れると、出てくる出口が顕著に偏る。これは「交代性転向」という言わばダンゴムシに生物として備わった機能によるものだ。多くの動物種でみられるらしい

 「ああなるほど。それで決まった出口からばかり出てくるのか」と、私なら小ネタを仕入れることができて満足するところだけれど、著者の着眼点は別のところにある。数は少なくてもその他の出口からも出てくるのはなぜか?ほかにも多くの実験で、同様の「予想外の行動」が観察できる。生物として備わった機能に反した行動に、著者は「心」の存在の一端を見る。

 「ダンゴムシの心」の研究にどのような成果が結実するのか?それは分からないけれど、私は前京都大学学長の山極壽一先生のゴリラの研究を思い出した。ゴリラの社会の研究と比較から、人間の社会の輪郭が浮かび上がってきた。ダンゴムシの研究からも私たちの「心」を解明する知見が得られるかもしれない。

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