彼女たちの部屋

著 者:レティシア・コロンバニ 訳:齋藤可津子
出版社:早川書房
出版日:2020年6月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 100年前に頑張った人のおかげで少し良くなった未来としての今があるのだ。そんなことを思った本。

 世界的な大ベストセラーとなった「三つ編み」の著者の第2作。前作と同じように、人生の厳しい試練の時にある女性たちが登場する。

 今回は主人公は2人の女性。一人目のソレーヌは、パリの有名法律事務所の弁護士として活躍していた。すべてが順調だった人生が40歳の時に、ある事件のショックで一変してしまう。何日も起き上がれない日々を過ごした後、何とか一歩を踏み出すが..。二人目のブランシュは、救世軍の女性士官から国レベルのトップである本営長にのぼりつめた。

 ソレーヌが生きるのは現代、ブランシュの物語は1925年~26年。二人の間には100年の時がある。だから、交互に語られる二つの物語が交わることはない。でもつながってはいる。

 ソレーヌの状態に対する医師の見立ては「燃え尽き症候群」。アドバイスは「ほかの人のために何かしてみませんか、ボランティアとか」。曲折を経て、いろいろな理由で困窮する女性たちが住む施設の「代書人」になる。私信から事務的書状まで、依頼に応じて文書作成をサポートする。週1回1時間の出張サービス。「いろいろな理由」を抱える入居者たちは簡単には心を開いてくれない...。

 物語は、ソレーヌが代書人として通う施設での出来事がけん引する。ブランシュも主人公なのだけれど、ソレーヌのパートの方が倍以上もある。アンバランスではある。しかし、ソレーヌの物語で描かれるのはソレーヌだけではなくて、施設に住む何人もの女性でもあることと、ブランシュの物語はソレーヌの物語に奥深さを与える役割を果たしているので、これでいい。なかなか巧みな配分だったと思う。

 胸が痛むエピソードが多いけれど、やさしくて力強い物語だった。冒頭に「人生の厳しい試練の時にある女性たち」と書いたけれど、それはソレーヌであり、ブランシュであり、施設の女性たちのことだ。つけ加えると、彼女たちは「厳しい試練の中を人生を切り拓いた女性たち」でもある。

 男はどこに?ブランシュと一心同体の夫のアルバンや、ソレーヌにボランティアを紹介したレオナールがいる。この二人のあり方も、男性のロールモデルであるかもしれない。

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