クスノキの番人

著 者:東野圭吾
出版社:実業之日本社
出版日:2020年3月25日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「誰かに想いを伝えたい」「誰かの想いを知りたい」ということの切実さと難しさを感じた本。

 主人公の名は直井玲斗。20代半ばの青年。勤め先の工作機械のリサイクル業者で、商品に欠陥があること客に教えてクビになり、未払いの給料と退職金代わりに金目の商品を盗みに入って捕まった。刑務所行きを観念していたところ、弁護士が接見に現れて「自由の身になりたいのなら」と提示した「依頼人の命令に従う」という条件をのんだところ、本当に釈放された。

 依頼人は、玲斗がこれまで存在も知らなかった伯母で、命令というのは「神社でクスノキの番人をする」というものだった。伯母の名前は柳澤千舟。玲斗の見当では「60歳よりもう少し上」。神社とクスノキは何十年も前から代々柳澤家が管理していた。そのクスノキに祈念すれば願いが叶うという。本当に願いが叶うのかどうか、玲斗は信じていないけれど、祈念に来る人たちの真剣さはが半端ない。

 物語は、このクスノキの祈念の秘密と、祈念に来る何人かの客の目的、といった謎を追いかけるミステリー。祈念の客が「クスノキの番人をしていながら、何も知らんのか」と言うし、千舟は「いずれわかる日が来る」と言うからには、クスノキの祈念はただの願掛けではない。客の真剣さを考えてもそれは確かだ。

 まぁまぁ面白かった。クスノキの祈念の秘密は、なるほど客が真剣になるようなものだった(「現実にあれば」ということだけれど)。客の目的の謎解きも面白かった。帯に「ナミヤ雑貨店の奇蹟」の名前が上がっているけれど、確かにいくつかの共通点がある。ハートウォーミングな仕立てはその一つで、私はこういうのがけっこう好きだ。

 そうそう。千舟さんは柳澤一族が経営する、不動産、マンション、ホテル事業の運営会社で、かつては最高経営責任者を務めて「女帝」と呼ばれた人。今は一線から身を引いているけれど、いまだ影響力がある。物語にはホテル事業に関する一族との攻防も織り込まれていて、これも面白かった。

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