著 者:知念実希人
出版社:実業之日本社
出版日:2021年8月10日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
ミステリーというジャンルへの著者の愛が感じられる本。
本屋大賞第8位。
雪で外界から閉ざされた山奥に建つ館で起きる連続殺人事件のミステリー。主人公は一条遊馬。館の主人である神津島太郎の専属の医師。神津島が「重大発表がある」と言って、遊馬の他にミステリー作家や編集者、自称霊能力者らを館に招待したその夜に、主人の神津島が殺された..。部屋の扉にはカギが掛かっていて他に出入口はない..。館には遊馬たちゲストが6人、主人の神津島と執事とメイドと料理人の4人の、合計10人。
いわゆる「密室殺人」で、密室の謎を解き明かさないと犯人を突き止められない..普通ならそうなんだけれど、本書は違う。なぜなら冒頭のプロローグで遊馬が犯人であることを告白しているし、続く章でいかにして密室を作り上げたかも明らかになっている。
これは「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のように、犯人が最初に分かっている「倒叙ミステリー」だ。名探偵が事件の解明を進めて犯人を追い詰める心理劇。だから名探偵が必要なのだけれど、本書にも「名探偵」を名乗る、なかなか魅力的な人物が招待客の中にちゃんと配置されている。
なかなか楽しい物語だった。閉ざされた建物の中で次々と人が殺されるのだから、緊張感が漂っているのだけれど、それが時々フッと緩むときがあって、微苦笑する。登場人物の多くがミステリーマニアだという設定で、膨大な数の実在のミステリー作品のうんちくが語られるのは、善し悪しだと思うけれど私は楽しかった。
そうそう。上に、犯人が最初に分かっている「倒叙ミステリー」だということを書いたけれど、読み終わったらそんな説明では「全く足りない」ことが分かる。目に見えていることが真実だとは限らない。
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