スモールワールズ

著 者:一穂ミチ
出版社:講談社
出版日:2021年4月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 中に一つとても怖い話があって、それに不意打ちをくらって震えた本。

 本屋大賞第3位。

 50ページほどの長めの短編を6編収録。主人公はそれぞれの物語で代わる。前後の短編のエピソードに緩い繋がりがあって、連作短編集の形にもなっている。特筆すべきは、6編がそれぞれ全くちがったテイストの作品であることで、連作にしては一体感がないものの、色々な料理をちょっとづつ食べるような楽しさを感じた。

 「ネオンテトラ」は、子どもを望みながら授からない女性の話。ままならない日常を抑え目に描く。「魔王の帰還」は、少しぶっ飛んだ豪快な姉を持つ高校生の話。青春と豪快な姉の細やかな心情を描く。「ピクニック」は、新生児の女性とその母に起きた悲しい出来事。誰も望んでいない意外な結末。

 「花うた」は、傷害致死で兄を亡くした女性とその事件の犯人との間の往復書簡。互いに理解が進むようで進まない。「愛を適量」は、冴えない高校教師の男性の話。ある日突然、娘が「男」になって現れた。「式日」は、高校時代の後輩からその父親の葬式への出席を頼まれた男性の話。後輩の過去を聞かされる。

 私が好きなのは「魔王の帰還」。「少しぶっ飛んだ豪快な姉」というキャラクターがいい。傍若無人な振る舞いは傍迷惑かもしれないけれど、それで救われる人もいる。正しいことを躊躇なく言っても嫌味にならないのは、根っからの善人だからだ。子どもたちが懐くのがその証拠だろう。

 心に残ったのは「愛を適量」。物語自体というより「愛にも適量がある」という考えが。主人公は「適量が分からない」から料理が下手。それと同じように、娘への接し方も下手なのだ。そう言えば、他の短編の登場人物の振る舞いも「適量」じゃない気がする。まぁ「適量」の人ばかりじゃドラマにならないのだけれど。

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