新海誠の世界を旅する

書影

著 者:津堅信之
出版社:平凡社
出版日:2019年7月12日 初版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「新海誠さんというのは「研究対象」になったんだ。確かにその価値はありそうだ」と思った本。

 著者は、日本大学藝術学部の先生でアニメーション研究家。日本のアニメーション史が専門。「あとがき」によると、新海誠監督と直に会ったことはなく、著書もこれまではアニメの歴史に関することで、現代のものをテーマに一冊書いたのはこれが初めてだそうだ。

 タイトルの「新海誠の世界を旅する」の「旅」は、二重の意味を持っている。一つは、新海監督の出世作である「ほしのこえ」から、最新作(執筆時は公開前)の「天気の子」までの、作品の解説・批評という「作品の世界の旅」。とても整理されいて読みやすい論考だと思う。もう一つは、作品の舞台やロケ地、ゆかりの地を訪う「現実の世界の旅」。著者自身がそこに行って、見たこと感じたこと考えたことを書いている。

 章を建てて取り上げた作品は「ほしのこえ」「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」「星を追う子ども」「言の葉の庭」「クロスロード」「君の名は。」「天気の子」。それ以外にも「遠い世界OTHER WORLDS」「彼女と彼女の猫」、信濃毎日新聞や大成建設や野村不動産のCM、NHKの「みんなのうた」と「アニ*クリ15」など。細大漏らさない態度が、誠に研究者らしい。

 とても楽しく興味深く読んだ。実は私も上に挙げた作品は全部観ている。ファンだという意識は薄いのだけれど、ちょっと縁があって「ほしのこえ」以降は注目はしていた。だから解説・批評の「作品の世界の旅」は語り合っているような気がしたし、「現実の世界の旅」は行ったことのない土地への憧憬を感じた。

 一つだけ、気になったこと。正直に言うと「気に入らなかったこと」。

 「君の名は。」のクライマックスについて「なぜそうしたのか?」と批判的に疑問を呈し、「こうあるべきだったのでは」という主旨のことを書いていること。それに関する新海監督の発言を「すべきではなかった」とまで書いている。それまでは研究者らしい分析に基づく冷静な批評だったのに、ここだけなぜか著者自身のエゴ(自我)が顔を出す。他人の作品のストーリーに対して「こうあるべきだった」なんて、それこそ「すべきでなかった」と思う。

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