花の魔法、白のドラゴン

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:田中薫子
出版社:徳間書店
出版日:2004年8月31日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「バビロンまでは何マイル」の続編。続編といっても、登場人物の1人が同じで、時間的に連続して設定になっている以外はあまり関係はなく、本書だけ読んでも楽しめるようになっている。実際、日本では本書の方が先に出版されているし、約2年遅れて出版された「バビロン~」は、東京創元社という別の出版社から出ているので、日本の読者の多くは本書から手に取ることが多いだろう。

 「バビロン~」の登場人物の1人である、地球の少年ニックと、「ブレスト」という世界に住む少女ロディの2人が主人公。そう、本書も多元宇宙が舞台だ。
 ストーリーは、「ブレスト」の魔法使いたちの陰謀を、ロディとその友達のグランドが知ることから始まる。その陰謀を阻止しなければ、魔法のバランスが崩れ、世界が大混乱に陥ってしまう。
 しかし、子どもたちにできることはそう多くはなく、大人たちは揃って頼りにならない。ロディが「私を助けて」と、魔法で呼び出した少年は、鈍くて役に立ちそうもない。途方に暮れる二人…….。

 「魔法のバランス」という概念は、ジョーンズの小説に頻繁に出てくる。これを保たないと、多元宇宙全体が崩壊してしまう恐れもある。また、本書には、魔法はもちろん、「ドラゴン」や「冥界の王」「小さき民」など、ファンタジーではおなじみの要素がたくさん出てくる。「マーリン」もアーサー王のマーリンではないが登場する。
 ジョーンズ作品のファンはもちろん、ファンタジー好きなら間違いなく楽しめるだろう。

 ただ、ちょっと他のジョーンズ作品とは違った面もいくつか感じた。
 1つは「家族」について。本書でも「バビロン~」でも、家族というか肉親の間で善悪が分かれる。主役級の登場人物の肉親が、悪の首謀者であったりする。また、ロディの両方の祖父母や叔母、グランドの両親など、登場する大人たちの多くが離婚してしまっている。(ロディがこのことについて声を荒げるシーンもある。)ストーリー展開上、特に必要とは思えないのだけれど、何か意味はあるのだろうか?

 もう1つは「ロマノフ」という名の魔法使いについて。彼は、多元宇宙で最も力のある魔法使いと言われているが、どこにも属さない。住んでいる場所さえも、複数の宇宙の切れ端で作った島で、どこの宇宙でもない。何かのために(例えば、魔法のバランスを保つためとか)働いたりもしない。全くの自由人だ。
 トム・ボンバディルという人物が「指輪物語」に登場する。彼も何物にも侵されない力を持っているけれども、何物にも執着しない。共通点を感じる。ロマノフはずっと俗っぽいのだけれど。

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2つのコメントが “花の魔法、白のドラゴン”にありました

  1. ピッピ

    ジョーンズ大好きです。いまデイルマーク王国史挑戦しているところです。このお話も面白かったですよね。ファンタジーだからこそ語れる社会をうまく書いていて痛快に思うこともありますね。ハウルの映画はちょっと残念に思いました

  2. YO-SHI

    ピッピさん、こんにちは。

    ジョーンズ大好きという人からコメントをいただいて、とてもうれしいです。
    あまりいないんですよ。周囲にはもちろん、ブログにコメントをくださる方の中にも。
    「デイルマーク王国史」3部作、いつかは読みたいと思っていました。そろそろ読もうかな?

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