著 者:藤岡陽子
出版社:ポプラ社
出版日:2020年7月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
著者は、中学生がこんなに瑞々しく躍動する物語も描くんだと、うれしく思った本。
藤岡陽子さんの近刊。私は「トライアウト」「テミスの休息」「満天のゴール」と読んできて、本書は4作品目。これまでの3作品は、様々な立場のシングルマザーを中心に据えた心に沁みる大人の物語だった。ところが本書の主人公は女子中学生。どんな話なのか興味津々で読んだ。
主人公の名前は春野暁。中学2年生。5月という中途半端な時期に転校してきた。物語は新しい学校のクラスで「みなさん、はじめまして。私は春野暁といいます」と暁が自己紹介する場面から始まる。教室内を見渡すと、値踏みするような鋭い視線が集まってくる..。
暁は、小学生の時にミニバスケットのチームにいた。「暁からバスケットをとったらなにも残らないだろ」と父親から言われるぐらい、一筋に励んでいた。ところが、新しい学校には「男バス」はあるけど「女バス」はない。父は「男バスのマネージャーを..」と言い、それを「いい考えだと思う」と言うが、暁は「そんなの、ちっともいい考えだとは思わない」
心を惹き付けられる物語だった。この後は「ないなら創ればいい」と女バスを創部して、部員が一人また一人と集まって、練習で素人集団も力をつけて...。こんな要約を読むと「どこかで聞いたことあるような」と思うかもしれない(私もチアリーダーのドラマを思い出した)。そうであっても、この物語は無二のものだ。ケーキを同じ型を使って焼いても同じ味にはならない。
部員のひとりひとりに事情がある。中学生だから親がらみで、もちろんその親にも事情がある。ついでに言うと先生にも。そうした事情に翻弄されながらも、中学生たちが困難を乗り越える姿に心打たれた。もちろん大人の力を借りないと解決できないこともあるのだけど、中学生たち自身が働きかけないと、大人は察して手を貸してくれたりしない。(暁と父親のように、親子はかなりズレている)
青春小説でおススメのものない?と聞かれたら本書を薦めようと思う。
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