おまえさん(上)(下)

書影
書影

著 者:宮部みゆき
出版社:講談社
出版日:2011年9月22日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 人は良いけれど、剣術も推理も並み以下で、昼間っから馴染みのお菜屋に入り浸っている、「ぼんくら」同心、井筒平四郎シリーズの第3弾。第3弾だとは読み始めるまで知らなかった。ずい分前に図書館に予約していてようやく順番が回ってきた。

 時代は江戸時代。江戸の街の庶民の慎ましくも安定した暮らしが伺えるから、時代が下ってきたころなのだろう。舞台は平四郎の担当地域の本所深川あたり。平四郎は「臨時見廻り同心」という役職で、まぁ見廻るのがお役目。見廻っているのかただブラブラしているのか分からない、というのが「ぼんくら」同心たる所以。

 物語の中心は連続殺人事件。被害者には、刀で袈裟懸けにバッサリと切られた、という共通点がある。平四郎は、若い同僚の同心の間島信之輔、岡っ引きの政五郎らと真相究明にあたる。..あたると言っても、平四郎は一見するとほとんど活躍しない。

 本書の魅力の1つは、その登場人物たちの多彩さにある。しかもそれぞれの人物が揃って魅力的だ。平四郎の甥で美形の少年の弓乃助、政五郎の子で抜群の記憶力を持つ三太郎、面倒見の良いお菜屋の女主人のお徳、信之輔の大叔父で枯れた老人の元右衛門....
 挙げていけばればキリがない。上下巻合わせて千ページを超える長編で、多くの人物が物語に絡んできて上に、政五郎の手下や町医者の先生や長屋の野菜売りのおじさん、といった端役に至るまで個性的だ。しかも揃って友達になりたいほどの「気持いい」人たちなのだ。

 上下巻の「上」は連続殺人事件の謎解きミステリー、「下」は犯人の探索行と人情話。千ページは長いが楽しみも多い。

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