著 者:安倍宏行
出版社:PHP研究所
出版日:2014年7月29日 第1版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)
著者は昨年までフジテレビの報道の要職を歴任してきた。2002年10月から1年間滝川クリステルさんと共に「ニュースJAPAN」のキャスターを務め、その後もコメンテーターとして出演していたので「あごヒゲのキャスター」として覚えている方もいるかもしれない。
本書は、著者の21年間のテレビマン生活を振り返り、テレビニュースの現場を数々のエピソードを交えて紹介する。その結果として「マスゴミ」と蔑まれて視聴者から見放されたかのような、テレビ報道の絶望的な状況をあぶりだしている。
テレビ報道は即時性と映像が強みだ。しかしそれがそのまま弱みになっている。新聞の記者は、基本的に文字原稿を日に2回の締切までに仕上げればいい。しかしテレビの報道記者は、原稿を起こして、映像の撮影を指示して、編集しなければならない。場合によっては「顔出し」して話すこともある。つまり、それだけ手間も暇もかかる。そして締め切りは、ニュースの重要性によるが、基本的に「できるだけ早く」だ。
テレビ番組は、コストと視聴率の両面から圧迫を受けている。コスト削減は上に書いた「手間暇」のかかる報道の現場を疲弊させる。そのため十分な取材が行えなくなり、それが信頼性を落とす原因になっている。視聴率を得るために、視聴者におもねってウケのいい話題を取り入れる。結果としてワイドショーと区別がなくなって、却って視聴者が離れていくという皮肉。ネットでの炎上事件は、多くはいわれのない中傷なのだけれど、ボデーブローのように効いて体力を奪う。八方塞がりで出口が見えない。
まさに「タイトルに偽りなし」の絶望的状況。ただ私は少し違うものを期待していた。テレビ報道に深く関わった著者ならではの展望なり提言が欲しかった。なんだかんだ言っても、テレビ報道がこのまま衰退して、一番困るのは私たち視聴者(国民と言い換えてもいい)だからだ。著者もその認識はあって、かすかな希望を見出そうとするのだけれど、その試みがうまく行ったとは言えない。それは著者の責任ではなく、それだけテレビ報道を取り巻く絶望が深い、ということだけれど..残念。
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