13.ル・グウィン(ゲド戦記)

ゲド戦記外伝

書影

著 者:ル・グウィン 訳:清水真砂子
出版社:岩波書店
出版日:2004年5月27日第1刷 2005年12月26日第4刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 これまでのゲド戦記で語られた物語の300年前から同時代の5つの短い物語と、アースシー世界の解説が収められている。
 著者が構築した世界観を知るには良い作品集だ。ロークの学院の起こりや、ゲド戦記の登場人物たちに厚みを持たせるエピソードなどが分かる。

 中でも重要と思われるのが、最後に収められた「トンボ」という100ページの中編。これは、第4巻「帰還」の数年後、第5巻「アースシーの風」よりは前の物語で、第5巻で十分な説明もなく登場するアイリアンの話だ。この中編のなかで、大賢人がいなくなってしまったロークの学院は危機に瀕し、アイリアンがこれを克服する。4巻と5巻を橋渡しする物語だ。
 原書では、この外伝は第5巻の前に出版されているので、順番としては順当だ。日本では逆になっているのだが、岩波書店はどういうつもりでそうしたのだろう。5巻まで読んだ読者には必読の書だと思う。

 ところで、著者は4巻「帰還」から10年以上の歳月を空けて、この「外伝」を出している。前書きに「ちょっと覗いてみると、私が見ていなかった間に、アースシーではいろいろなことが起きていた」と書いている。作家らしい気の利いた物の言い様だとは思うが、私はワザとらしさを感じて好かない。

そうそう、「トンボ」に、「外より内はずっと大きい」という言葉がでてくる。この言葉は、ルイスのナルニア国物語7巻「さいごの戦い」にも出てくる。もしかしたら、欧米では慣用句なのかも。

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アースシーの風 ゲド戦記5

書影

著 者:ル・グウィン 訳:清水真砂子
出版社:岩波書店
出版日:2003年2月20日第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ゲド戦記の第5巻。第4巻のタイトルが「帰還 ゲド戦記最後の書」だから、言葉通り素直に受け取れば、一度終わりにしたものを、もう1度復活させた、ということだ。
 3巻と4巻の間にも18年の間隔があり、4巻と5巻の間も11年空いている。これだけの時間を要したのは何故なんだろう。

 4巻は「最後の書」でありながら、何か完結した感じがしないものだった。多くのことが宙ぶらりんのままだった。ゲドは戻ってきたけれどその後はどうなるのか?そして最大の謎は、「テハヌーとは何者なのか?」だ。4巻で竜のカレシンに「娘よ」と呼ばれたのだから、やはり竜なのか?
 本書の最大のテーマも「テハヌーとは何者なのか?」だと思う。彼女は何をしてくれるのか?何ができるのか?1冊を通してこの疑問というか期待がストーリーを引っ張っている感じがする。
 思うに、3巻「さいはての島へ」以来の完成度の高い作品だと思う。今度こそ長い物語が完結した、と思える終わり方だった。

 話は戻るが、「テハヌーとは何者なのか?」というテーマを通じて、4巻と5巻は1つの物語になっている。4巻のドラマの少なさも中途半端な終わり方も、「テハヌーの物語」の前編と思えば納得もいく。著者だって、4巻の終わりの時点で、テハヌーが何者であるかの考えはあったはずだ。それなのに、なぜ4巻は「最後の書」なのか?なぜ5巻までに11年も空いてしまったのか?

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帰還 ゲド戦記最後の書

書影

著 者:ル・グウィン 訳:清水真砂子
出版社:岩波書店
出版日:1993年3月25日第1刷 1993年5月12日第3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 第3巻「さいはての島へ」から18年ぶりの第4巻。日本での出版で言えば16年ぶりになっている。待望の新刊ということなのだけれど、どうもパッとしない。

 「こわれた腕環」のテナーが再登場したので、どんな活躍をしてくれるのかと期待した。エレス・アクベの腕環を持ち帰り、この世に平和と秩序をもたらした当本人だ。ゲドの行方が知れない以上、この世界に対して特別な役割を持っているに違いない。
 と、そんな期待を持っても責められないと思うのだが、その期待には今回は応えてもらえない。

 虐待された過去を持つ子どもテルーという新たな登場人物の存在を軸に物語は進んでいくが、ウツウツとしたいやな感じの事件が何度か起こるだけで、大きなテーマが見えてこない。
 ファンタジーなのだから、正邪の戦いとか、この世の均衡とか、平和を取り戻すとか、そんなテーマがあっても良さそうに思うが、この巻で成されたことは、テルーをそのろくでもない親族たちから守った、ということに尽きる。
 どうも、テルーは特別な存在なのではないか、ということは明かされた。しかし、それも非常にあいまいなままだ。これで「最後の書」ではあんまりではないか。もっと言えば、ゲドはどうしてしまったのだろう。ゲドが何ら物語に関わってこない「ゲド戦記」で良いのだろうか?

 そうそう、フェミニズムの空気が途中で色濃く漂う。グィンのメッセージはここにあったのかと思った。もしそうであるなら、読者の期待とは恐らく違っていたと思う。

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さいはての島へ ゲド戦記3

書影

著 者:ル・グウィン 訳:清水真砂子
出版社:岩波書店
出版日:1977年8月30日第1刷 1989年3月15日第16刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ゲド戦記の第3巻。主人公であるハイタカことゲドは大賢人となってロークの学院長になっている。これだけでハイタカが並々ならぬ魔法の力の持ち主で、多大な尊敬を得ていることがわかる。年月もかなり経っていると想像される。

 第3巻には、主人公といえる人物がもう1人いる。エンラッドという国の王子アレンだ。彼はただの王子ではない。800年もの間空席になったままの王の血筋なのだ。指輪物語のアラゴルンのような存在だ。

 これまでの3巻の中では最も楽しめた。著者がどのように意図していたかまではわからないが。冒険物語、旅行記、少年の成長、正邪の戦い、生と死、そしてもちろん魔法。正統派ファンタジーの要素を集大成した物語になっている。(皮肉ではない)
 ジブリの「ゲド戦記」は、この巻をベースにしたものだと聞いている。確かに映画向きのストーリーだと思う。

 ところで、ゲドは故郷のゴントに帰ったまま行方知れずになってしまったが、これで終わりなのか?

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こわれた腕環 ゲド戦記2

書影

著 者:ル・グウィン 訳:清水真砂子
出版社:岩波書店
出版日:1976年12月10日第1刷 1989年2月15日第17刷
評 価:☆☆☆(説明)

 ゲド戦記の第2巻。前巻で自らの影と対決した若き魔法使いハイタカは、すでに竜を退治した「竜王」の称号を持つ大魔法使いに成長している。この間は数年という設定なので、年齢的にはまだ若いと言える。

 前巻が独特の雰囲気を持ちながらも、影との息詰まる攻防が描かれていて、他のファンタジーと共通する「動」の部分があったのに対して、本作は完全な「静」の世界だ。
 地下に巡らされた迷宮、そこを守る巫女、舞台は動きどころか光さえ差さない暗黒の地下迷宮なのだ。そして、ほとんど魔法は使われない。地震を留めるという魔法が後半にでてくるのだが、何かを起こすのではなく起こさないという、大技ではあっても地味なもの。その他は目くらましとか、うさぎを呼ぶとかで、本当に動きがない。動きがないだけに、ストーリーは内面に深く入り込む。

 言い忘れたが、今回の主人公はゲドではなく、巫女のアルハ(テナー)だ。ゲドは中盤まで姿さえ現さない。
 地下迷宮から巫女を救い出す、というのは、何かの暗喩なのだろうか?

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影との戦い ゲド戦記1

書影

著 者:ル・グウィン 訳:清水真砂子
出版社:岩波書店
出版日:1976年9月24日第1刷 1989年4月10日第18刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 指輪物語、ナルニア国物語と並んで世界三大ファンタジーの1つとされる。著者のル・グウィンはアメリカ人、SF界の女王、「西の善き魔女」とも言われている。ゲド戦記は現在のところ全6巻あり、本書は1968年に出版されたのに対し、5巻目、6巻目の外伝と「アースシーの風」はなんと2001年、33年の長い時間が流れている。

 本書は、主人公ハイタカ(本名はゲド、この世界では本名は魔法的に大変大きな意味を持つので、普段は通称で生活している)の生い立ちから、魔法使いとしての自立を迎えるまでを描く。
 善と悪、光と影といった2つの相反するものからなる世界観を色濃く感じさせる。そして言葉の力が強い。今も竜たちが使う古代の言葉は魔力を持っているし、その物の本当の名前を唱えることで相手を支配することもできる。「陰陽師」で、清明が同じようなことを言っていた。言霊信仰とともにこういった考えは、呪術に共通のことなのかもしれない。

 ストーリーは、主人公ハイタカが、己の未熟さゆえに、暗黒から影のようなものを引き出してしまい、それに追われる運命を背負う。そして、いくら逃げても最後にはそれと対決しなくてはならない。その影の正体は…、といったもの。少年から青年への成長と自立の物語だ。
 全編、呪術的な雰囲気が重く感じられるが、今後が楽しみな滑り出しだ。
 

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