27.三浦しをん

神去なあなあ夜話

著 者:三浦しをん
出版社:徳間書店
出版日:2012年11月30日 初刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「お仕事小説 林業編」の「神去なあなあ日常」の続編。主人公の平野勇気が、架空の読者に向かって綴る手記の体裁を取った、7つの短編からなる連作短編集。

 勇気は、高校卒業後に母親と先生に謀られて、三重県の山奥の神去村に放り込まれて林業に携わり、曲折はありながらも村で1年間を過ごした。その間に勇気の心には、村と林業への愛情が芽生え、村の方も勇気を受け入れるようになった。と、ここまでが前作の内容。

 今回は勇気が、神去村の起源となる伝説や、居候先のヨキとみきの夫婦のなれそめ、村のお稲荷さんの言い伝え、そして20年前の痛ましい出来事などを、親しい人たちから聞く。もちろん前作から引き続き、勇気と彼が慕う年上の女性である直紀さんとの関係の進展も描かれる、居候先のシゲばあちゃんのユーモアも健在だ。

 昔語りが多いこともあって、物語を一つづつ静かに積み上げる感じだ。前作にあった、オオヤマヅミさんという山神を祭る大祭のような盛り上がりはない。しかし、その抑え目な調子に、二十歳になった勇気の成長を感じるし、山村の日常にも合っていると思う。

 前作の物語が、勇気の神去村の「現在」の体験だとすれば、本書は、勇気が神去村の「過去」あるいは「記憶」に触れる体験だと言える。小さな村の社会は共通の「記憶」が積み重なって出来上がっている。今回の体験は、勇気が村の一員となるために必要なことであったし、村が勇気に懐を開いた証でもあると思う。

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本屋さんで待ちあわせ

著 者:三浦しをん
出版社:大和書房
出版日:2012年10月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 讀賣新聞の「読書委員」を務めておられた著者による「書評集」。讀賣新聞の他に日経新聞などに書いた記事が約80本と、「東海道四谷怪談」についてのエッセイを12本、さらに「おわりに」に20本あまりの本の紹介が収録されている。「一日の大半を本や漫画を読んで過ごしている(本人談)」というだけあって、膨大な読書量が伺える。

 率直に言って肩すかしを食った気持ちがした。先日紹介した「お友だちからお願いします」のことを、著者は「よそゆき仕様」と言っていたが、本書はさらに改まった感じ。前書と違ってニヤニヤするところはほとんどなかった。つまり私は、ニヤニヤやゲラゲラを期待していたわけだ。(「おわりに」でBLをまとめて紹介しているのが、著者らしいのだけれど、私はBLには興味がないので)

 作家が他の人の本を評するのは難しいのかもしれない。「ピンとこなかったものについては、最初から黙して語らない」そうなので、悪くは書かないまでも、面白可笑しく評してしまうのも不謹慎かもしれないし。100を優に超える紹介作品の中に、小説がわずかしかないのも、同業者の難しさ故かもしれない。

 とは言え、本書は「書評集」だ。そもそもニヤニヤやゲラゲラを期待すべきものではない。本書は「ブックガイド」としては私には有益な本だった。「東海道四谷怪談」をちゃんと読んでみようと思った。そして何よりも紹介されているのが、読んだことがないどころか、聞いたこともない本ばかりなのだ。「読みたい本リスト」に何冊も書き加えることになった。

 ※本書と「お友だちからお願いします」はセットなようだ。両方の素敵な装画を手がけたのは、イラストレーターのスカイエマさん。表紙の絵を並べて見ると、そこに物語が立ち上ってくる。

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お友だちからお願いします

著 者:三浦しをん
出版社:大和書房
出版日:2012年8月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「お友だちからお願いします」。タイトルのこの言葉を見て、私がまっ先に思ったのが「ねるとん紅鯨団」という、20年以上も前のテレビ番組のことだ。「お願いします!」-「お友だちからなら」というやり取りに、何の関係もない私もちょっと嬉しくなった。この言葉は、幸せなハニカミと結びついているのだ。(「何のことか分からん」という方もいるだろう。ゴメンナサイ。)

 本書は著者が2006年から2012年にかけて、新聞や雑誌などから依頼を受けて書いたエッセイ95編を収めたエッセイ集。著者の小説は好きで何冊か読んでいる。そしてエッセイが面白いことは聞き知っているのだけれど、これまで読む機会がなく、本書が私にとって初めてのしをんさんのエッセイ。

 「はじめに」によると、「ふだん「アホ」としか言いようのないエッセイを書いている」著者にとっては、依頼をいただいて書いた本書の作品は「よそゆき仕様」なのだそうだ。本書は「お友だち未満」の人に向ける少しすまし顔の本。そして「お友だち」から先への期待という、冒頭に書いたような幸せなハニカミを感じる本でもある。

 このように紹介すると、生真面目な印象が漂う。でも、「よそゆき仕様」からも滲み出る(著者は「地金」が出るとおっしゃっている)ものがあり、私は95編のほとんどでニヤニヤしっぱなしだった(おかげで家族から何度も変な目で見られた)。「よそゆき仕様」でこんなことを書いてしまうなんて、ふだんのエッセイはどんなものなのだろう?

 著者の作品のファンにはちょっと嬉しいこともある。「風が強く吹いている」「神去なあなあ日常」「仏果を得ず」などの作品の裏話的なエッセイもあるのだ。そして私は、新幹線で「京都あたりでお昼に食べよう」と買ったヒレカツ弁当を、品川に停車中に箸を付けてしまうしをんさんが好きになった。お友だちになりたい(その先は、ちょっと...)。

(2012.11.18 追記)
この本と1セットになる「本屋さんで待ちあわせ」も読みました。表紙の絵を並べて見ると、物語が立ち上がってきます。

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木暮荘物語

著 者:三浦しをん
出版社:祥伝社
出版日:2010年11月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 祥伝社の「Feel Love」という小説季刊誌に掲載された連作短編7編を収録。ちなみに「Feel Love」のキャッチコピーは「100%恋愛小説誌」。

 著者の作品は最新刊の「舟を編む」をはじめとして、「風が強く吹いている」「神去なあなあ日常」「仏果を得ず」と、他人にもおススメできる爽やかな作品が沢山ある。しかし本書は、他人におススメするのは微妙な、なんとも評し難い作品だった。70歳を過ぎた男性がデリヘル嬢を呼ぶ物語を、どんな顔をして薦めればいいのだ?

 もちろんこの男性の話は7編あるうちの1編にすぎない。しかし他の短編も、柱に〇〇〇(←自粛)の形のものがはえてくるとか、階下の部屋を覗くとか、道を外れた感じの物語が並んでいる。そう言えば、「きみはポラリス」も「普通ではない」恋愛短編集だった。著者が描くと「恋愛」はこんなにバリエーション豊かになるのだ。

 舞台の中心は、小田急線世田谷代田駅近くにある、木造二階建ての古ぼけたアパート「木暮荘」。住人は、大家の木暮、花屋に勤める坂田、外食チェーンの社員の神崎、女子大生の光子の4人。彼らと彼らを取り巻く関係者が順番に物語の主人公になる。

 上に書いたことで何となく分かるかと思うが、語られているのは主人公たちの「性」にまつわる物語。それもちょっと変化球。部分的にはエロ小説かと思う場面もあるが、読み終わって振り返えると別の思いが残っている。東京の私鉄沿線の、真面目で(はないかもしれないけれど)善人の人々の暮らしが、切なく慎ましく微笑ましい。

※著者の最新作で本屋大賞受賞作品「舟を編む」の映画化が決まったそうです。
 主演は松田龍平さん、共演は宮崎あおいさん。宮崎あおいさんは、「天地明察(2010年大賞」「神様のカルテ(2010年2位)」に続いての本屋大賞作品でのヒロイン役。(ついでに「陰日向に咲く(2007年8位)も)本屋大賞女優と言って差し支えないでしょう。

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まほろ駅前番外地

著 者:三浦しをん
出版社:文藝春秋
出版日:2009年10月15日第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「まほろ駅前多田便利軒」の続編。前作は、2006年上半期の直木賞を受賞し、昨年4月には、瑛太さん、松田龍平さんの主演で映画化されている。そして本書も、テレビ東京でドラマ化され、来年放送される予定。しかも、キャストは映画と同じ2人が務めるそうだ。これは楽しみ。

 主人公は、多田啓介と行天春彦。多田は、まほろ市という架空の街(一説によると町田市がモデルらしい)の駅前で「多田便利軒」という便利屋を営む。行天は、多田の高校時代の同級生。特に多田と仲が良かったわけでもないのだけれど、「多田便利軒」の助手として居候している。

 助手としての役にほぼ立っていない行天を筆頭にして、この物語の登場人物たちは、端役に至るまで個性が豊かだ。ヤクザまがいの青年、ちょっとボケ気味なおばあちゃん、妙に大人びた食えない小学生の少年、バスの間引き運転の証拠をつかむことに執念を燃やす老人...。

 実は彼らは、前作にも登場している。本書は7つの短編からなる短編集なのだけれど、その内の4編は、前作で登場した彼らの物語なのだ。個性豊かな登場人物たちだし、それぞれにファンもいるようだ。1回登場させただけではもったいない。
 つまりこの4編は、前作の読者へのボーナストラックのようなものだ。「続編」と書いたが、タイトル中の「番外地」が醸し出すように「番外編」でもあるのだ。

 他3編を含めた7編の中で、「食えない小学生」の田村由良くんの話「由良公は運が悪い」が、私は一番楽しめた。家族で公園に行く予定の休日に、両親の都合が急に悪くなった。一人で出かけて友だちを呼び出そうと取り出した携帯電話が電池切れ...。「運が悪い」ことが続いたが、極めつけは「行天と出会ったこと」。でも由良くん、けっこう楽しかったよね。

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シティ・マラソンズ

著 者:三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵
出版社:文藝春秋
出版日:2010年10月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は、スポーツ用品メーカーのアシックスの「マラソン三都物語」というプロモーションで、3人の人気女性作家がそれぞれ書き下ろした短編を収録したもの。その3人というのは、三浦しをんさん、あさのあつこさん、近藤史恵さん。これは贅沢だ。

 「三都物語」の「三都」とは、ニューヨーク、東京、パリの3つ。それぞれで毎年3万5~6千人もの市民ランナーが参加する、シティマラソン大会が催されている。三浦さんが「ニューヨークシティマラソン」あさのさんが「東京マラソン」、近藤さんが「パリマラソン」。それぞれのマラソン大会を題材にした物語を書き下ろしている。

 マラソン大会当日を描いたのは、三浦さんだけ。主人公を大会の参加者にしなかったのは、あさのさんだけ。主人公が陸上経験者じゃないのは、近藤さんだけ。三者三様だ。しかし、共通するものも見える。それは「回復」の物語だ。

 3人の主人公たちは、それぞれ挫折を経験している。いや、それは挫折とも言えないかもしれない。人生のどこかに置き忘れてしまったもの。そこの部分には穴が空いているので、本人もそうと気づかないけれど満たされない思いが募っている。そんな感じ。

 その穴がマラソンに関わることで埋められる。きっと「走る」ということは、人間の欲求や感情と深く結びついているのだと思う。小さな子どもたちを広い場所に連れて行くと、意味もなく駆け出すのは、それが気持ちいいからだ。

 そう、元来「走る」ことは気持ちいい。タイムや順位に拘れば辛いことが多くなる。しかし3万5千人もの参加者の多くは、気持ちよさを求めて集うのだろう。ネットには各大会の優勝記録が載っているけれど、記録には残らない何万何十万もの参加者と、その周辺の一人ひとりに物語があることを、本書は教えてくれる。

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舟を編む

著 者:三浦しをん
出版社:光文社
出版日:2011年9月20日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 前回の「くちびるに歌を」に続いて、本書も今年の本屋大賞ノミネート作品。

 駅伝に林業に文楽と、誰もが知っているけれど、多くの人は良く知らない世界を活写してきた著者が、今回描いたのは「辞書」。日本人で一度も辞書のお世話になったことのない人はいないんじゃないかと思う。しかし、辞書がどう作られるのかを、知っている人は少ないだろう。

 舞台は、玄武書房という出版社の辞書編集部。「大渡海」という新しい辞書を作ろうとしている。何十万語(「大渡海」は23万語)もについて、正確かつ納得のいく説明と用例を、一つ一つ決めていくのだから、10年なんかではとても無理。しかも「言葉は生き物」だから、日々の生活の中での「用例採集」も欠かせない。辞書を新しく作る、ということは、生活や場合によっては半生を捧げるような一大事業なのだ。

 まぁそんな仕事だから「変わり者」にしか務まらないのかもしれない。登場人物の多くが「変わった人」だ。本書は章ごとに主人公が何人か入れ替わる。その主人公の一人の女性が、初対面の「感じのいいひと」と言葉を交わして、「ああ、このひとも変人なんだ。まことに残念だ」と思うところが印象的だった。

 取り分け変わっているのが馬締光也、四捨五入すれば30歳だ。古びた木造アパートで書物に埋もれて暮らし、「あがる」と「のぼる」の違いを考えるのに没頭して、目の前で今まで話していた人の存在を忘れてしまう。さらに言えば彼が忘れてしまったのは、なんと彼の意中の人で、彼女には「謹啓」から始まる便箋15枚ものラブレター(本人は「恋文」と呼ぶ)を書いた。

 馬締の言葉に対する熱意というか執着は、辞書の編集に向いていて、天職とも言える。しかし、入れ替わりで登場する章ごとの主人公たちが、必ずしも馬締のように辞書の編集に向いているわけではない(少なくとも本人はそう思っている)。しかしその全員が、いや他の登場人物も殆どが、名前が付いていないアルバイトでさえ、与えられた立場と役割を精一杯全うしようとする。その姿が本書に勢いと清々しさを与えている。

 ちなみに「舟を編む」というタイトルは辞書の名前の「大渡海」と同様に、「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」「もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために、ひとは辞書という舟に乗る」という思いから来ている。
 私もブログの記事を書くときに、必ずと言っていいほど辞書のお世話になっている(紙の辞書ではなくネット辞書だけれど)。思いを的確に表す言葉を探すために。それは見つかったり、結局見つけられなかったりするけれど。

(2012.7.14 追記)
本書の映画化が決まったそうです。主演は松田龍平さん、共演は宮崎あおいさん。宮崎あおいさんは、「天地明察(2010年大賞」「神様のカルテ(2010年2位)」に続いての本屋大賞作品でのヒロイン役。(ついでに「陰日向に咲く(2007年8位)も)本屋大賞女優と言って差し支えないでしょう。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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あやつられ文楽鑑賞

著 者:三浦しをん
出版社:双葉社
出版日:2011年9月18日 発行 
評 価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」のお友達の日記で知った本。
 著者はその作品「仏果を得ず」で、文楽の奥深い世界を、若手の大夫(文楽で情景やセリフを語る役)の目を通して、小説の形で垣間見せてくれた。本書では、同じことを文楽の劇場の楽屋への「突撃レポート」風のエッセイの形でやってくれた。「仏果を得ず」と合わせて読むといいと思う。

 著者はまず、三味線の鶴澤燕二郎(2006年に鶴澤燕三を襲名)さんの楽屋に行って、かなり面白い(どうでもいいような)質問をしている。「みなさんで飲みに出かけたりはするんですか?」とか。「楽屋の部屋割りはどうやって決めるんですか?」とか。しかし、その(どうでもいいような)質問が、思いがけず文楽の伝統を感じさせる答えを引き出す。

 そんな感じで、次の回は人形遣いの桐竹勘十郎さんのところへ行って、何と人形を持たせてもらっている。著者曰く「美少女との初デートで、思いがけずはじめての接吻までこぎつけた」ようなものだ。そしてまた、燕二郎さんのところへ、勘十郎さんのところへと、行き来して、後半では大夫の豊竹咲大夫さんにもお話を聞いている。皆さんご協力ありがとうございます。(と私までお礼を言いたいぐらい、文楽の演者の皆さんは協力的だった)

 そんな「突撃レポート」を挟むように、文楽の主な演目の解説がある。著者独自の視点から、登場人物にツッコミを入れながらのユニークなものだ。特に「仮名手本忠臣蔵」の章は、量的にも質的にも圧巻だった。これを読んで「仮名手本忠臣蔵」を観に行けば、何倍も楽しめることだろう。

 文楽に限らず「楽屋」というのは興味深いものだ。舞台の裏側を覗いてみたいということもあるが、演じている「人」のことを知りたい、というのも大きい。本書はその両方を満足させてくれた。「人」に興味があるのは著者も同じらしく、江戸時代の文楽の作者の人となりにまで想いを馳せている。それがまた思いがけず慧眼であったことが、巻末の「解説」に記されている。

 冒頭の(どうでもいいような)質問といい、この文楽作者の人となりといい、「思いがけず」良い結果を生んでいるんだけれど、これはもしかして著者には、ものすごい才能があるということなんじゃないだろうか?

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格闘するものに○

著 者:三浦しをん
出版社:草思社
出版日:2000年4月14日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2006年に「まほろ駅前 多田便利軒」で直木賞を受賞、。「風が強く吹いている」「仏果を得ず」「神去なあなあ日常」などのヒット作で知られる、人気作家の著者のデビュー作、2000年の作品。

 主人公は藤崎可南子。就職活動中の文学部の学生。就職希望先は出版社。漫画編集者になりたいのだ。可南子が情熱を持って取り組んだことと言えば、漫画を読むことぐらいで、漫画については一家言ある。
 ただし就職活動には向いていないようだ。「平服で」を「ファッションセンスを見るのだな」と解釈して、気合を入れて黒ずくめに豹柄のブーツで面接に出かけたり、ちょっと立ち寄った古本屋で、高値で取引されている「キン肉マン」を見つけて、嬉しくなって面接を忘れて帰ってしまったり。

 さらに、可南子には妄想癖がある。ある時、集団面接で「学生時代に一生懸命やったこと」として、「彼女を大切にすることかな」と向かいに座った男が答えた。可南子は男の「襟首をつかんで背後の窓に何度もたたきつけ、べっとりとガラスには...(過激な表現のため自粛)」と、自分も面接の椅子に座ったまま思い浮かべてしまう。
 就活以外にも、さまざまなものと「格闘する」可南子だが、ちょっと空回り気味だ。まぁ、それがまた「格闘してます感」を醸し出しているのだけれど。

 こう紹介するだけでも、ゴムまりが弾むような勢いと面白さが、少し伝わるだろう。しかし、デビュー作にかける著者の意気込みは、さらに何重にも面白い設定を、主人公の可南子に施した。可南子の家も弟も友だちも恋人もちょっと普通じゃない。普通じゃないけれども、みんなひっくるめて「いい話」になっている。

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きみはポラリス

著 者:三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2007年5月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 三浦しをんさんの短編集。小説新潮やアンソロジーに書いた「恋愛短編」が11編収録されている。巻末の「初出・収録一覧」に、それぞれの短編のテーマが「お題」「自分お題」として載っているので、読む前でも後でも良いので見るといいと思う。

 その「初出・収録一覧」に「「恋愛をテーマにした短編」の依頼が多い」と書いてあり、不思議な感じがした。そんなに数を読んでいないけれど、今まで読んだ著者の作品からは「恋愛小説」のイメージはない。「風が強く吹いている」「仏果を得ず」「神去なあなあ日常」。どの作品の主人公も恋はする。でも「恋愛小説」ではない。直木賞受賞作「まほろ駅前 多田便利軒」には、恋愛の要素はあっただろうか?

 読み始めてすぐに「もしかしたら?」と気が付くのは、本書の物語は「普通の恋愛小説」ではないんじゃないか?ということ。誰かが誰かに恋したり愛したりすれば「恋愛」かもしれないけれど、相手が死んでしまっていたら?誘拐犯だったら?ペットだったら?、二人が姉弟だったら?女同士だったら?男同士だったら?世間的には許容範囲が広がったとはいえ、まだこれは「普通」ではないだろう。「恋愛をテーマにした短編」の依頼者の期待は、これで満たされたのか心配になってくる。

 「普通」じゃつまらない、という人にはバリエーション豊かで良いだろう。しかし、私は読んでいて、そわそわと落ち着かなくて仕方なかった。その中では、一対になっている最初の一編と最後の一編は、少しだけれど主人公を応援したくなった。私の許容範囲も少し広がっているようだ(笑)。

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