3.ミステリー

真夜中のパン屋さん 午前4時の共犯者

書影

著 者:大沼紀子
出版社:ポプラ社
出版日:2016年3月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「まよパン」シリーズの第5弾。前作「午前3時の眠り姫」が2013年10月の発行だから2年半ぶりの新刊、ということになる。

 このシリーズは午後11時から午前5時までの、真夜中に開いているパン屋「ブランジェリークレバヤシ」を舞台にした物語。そのパン屋に転がり込んできた居候の高校生の希実が主人公。当初は真夜中の店に集う「怪しいお客」とちょっといい人情話、という印象の物語だった。

 巻を追うごとに、希実にまつわる秘密に焦点が当たって来た。最初は、「ブランジェリークレバヤシ」の亡くなった奥さんの美和子とは「腹違いの姉妹」だ、ということだった。それはウソなのだけれど、美和子と希実、そして希実の母の律子には深い縁があった、というところまで前回までに語られた。

 そして本書は、希実が律子と1年半ぶりに会う場面から始まる。そこから、希実にとっては(読者にとっても)ジェットコースターのような驚天動地のストーリーが最後まで続く。それも約560ページ、これまでの巻のざっと6割増しの分量。読み応えアリ。

 希実の出生からさらに遡って、美和子と律子の交遊が描かれる。律子は、希実を置いて度々姿をくらましてしまい、希実は放置されて生きてきたように思っていたが、意外と沢山の大人の目が注がれていた。著者がこんな物語を用意していたとは思わなかった。

 「ブランジェリークレバヤシ」の営業時間を考えると、次作が最終巻か?楽しみであり寂しくもあり。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

フロム・ミー・トゥ・ユー

書影

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2013年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第8弾。

 東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」を営む堀田家の下町大家族物語。毎回ミステリー仕立ての心温まる話が楽しめる。今回は、いつもと少し趣向を変えて、堀田家だけでなく脇役の皆さんも含めた、11人が代わる代わるに語りを務める短編集。

 順番に言うと、堀田家の長男の紺さん、次男の青さんの奥さんのすずみさん、フリーライターの木島さん、紺さん奥さんの亜美さん、IT企業の社長の藤島さん、ちょうど真ん中の6人目が紺さんたちのお母さんの秋実さん。

 後半は、まずは青さん、紺さんの息子の研人くん、近所の小料理居酒屋の真奈美さん、真奈美さんのお店の板前の甲さん、最後が堀田家のおおばあちゃん(紺さんたちのおばあちゃん)のサチさん。

 堀田家には今4世代が同居している大家族。それぞれに語るべき物語がいくつもある。今回、これまでに少しだけ触れられたり、まったく語られなかったことが、まとまった形で読者に示された。読者サービスの巻と言えるだろう。

 どの話もしみじみと面白かった。でもひときわ注目されるのは、秋実さんの物語だろう。堀田家の人が心を寄せる太陽のような人。でも、数年前に亡くなったために、これまでほとんどエピソードが語られなかった。シリーズの読者なら関心があったはずだ。

 秋実さんの物語が読めて、私は大満足だ。ただ、更なる欲が出て来た。意図的にだと思うが、秋実さんの物語は10ページしかなくて、他と比べても極端に短い。長編にならないかなぁ。

 2014年に書いた前作の「レディ・マドンナ」のレビューで、「早く続巻を望む」と書いているけれど、その時すでに本書は出版されていた。その後に続編が出ているのも知らずにいた。現在第10弾まである。楽しみが増えた。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

サブマリン

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2016年3月30日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。書き下ろし長編で、あの「チルドレン」の続編で、「陣内さん、出番ですよ。」と書いた帯が付いている。これは伊坂ファンならばすぐにでも読みたいだろうと思う。

 陣内は、数多い伊坂作品の魅力的なキャラクターの中でも、人気がある登場人物で、「チルドレン」以来12年間登場していない(たぶん。作品間リンクでの言及はあったけれど)。つまり待望の再登場だからだ。

 「チルドレン」は、陣内の学生時代と家裁の調査官になってからの、2つの時代を交互に描いた短編集だった。本書は長編で、家裁の調査官で主任になった陣内を、陣内さんの部下となった武藤を主人公にして描く。時代は「チルドレン」の「家裁の調査官パート」から、数年後ぐらい。

 陣内のことがよく分かるエピソードが「チルドレン」にある。永瀬という盲目の友人が、盲目というだけで憐れまれて現金を手渡された。その過剰な同情は、永瀬はじめ友人たちの心に影を落とす。陣内も怒った。「何で、おまえがもらえて、俺がもらえないんだよ」「(目が見えないことなど)そんなの関係ねえだろ」

 その魅力は健在だった。「空気を読まない」から誰かを傷つけてしまうかもしれない。でも、その固定観念に縛られない感性は、時に「本当に大事なモノ」をしっかりと捉える。陣内のところに、かつて担当した少年たちがなぜか顔を出すのは、やはり何か救われた思いがあるからだろう。

 だから面白かった。ただ、本書は重いテーマを抱えている、ということも指摘しておく。サンデル先生の「これからの「正義」の話をしよう」に重なる、「正義」に関するもので、容易には答えが出ない。そのために、荷物を持ったまま物語を読むような気の重さを感じてしまった。

 最後に。鴨居くんはどうしたのだろう?

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

戦場のコックたち

書影

著 者:深緑野分
出版社:東京創元社
出版日:2015年8月28日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞の第7位の作品。直木賞、大藪春彦賞にもノミネートされていて、「このミステリーがすごい!」「このミステリーが読みたい!」ではともに第2位。1位にはならなかったとしても、なかなかの話題作だ。

 主人公は、ティム・コール。年齢は20歳前後。合衆国陸軍の兵士。時代は、第二次世界大戦のころ。舞台はフランス、ベルギー、ドイツのヨーロッパ戦線の前線。

 ティムは、パラシュートで降下して、戦いの最前線に送り込まれる兵士。そして、彼には戦う以外の任務もある。他の兵士たちの食事を調理する「コック兵」でもあるのだ。タイトルの「戦場のコックたち」とは、ティムとその同僚の「コック兵」のことを指している。

 話題作になるのが頷ける。今までになかった物語だと思うからだ。戦場を舞台とした作品は数多くても「コック兵」を主人公とした作品は少ないだろう。そして忘れてはならないのは、本書が「ミステリー」だということ。事件が起き、謎解きがある。

 その事件というのが、殺人事件のような大事件ではなく、ちょっとした不思議な出来事だ。ジャンルで言えば「日常の謎」。戦場という極め付けの「非日常」の中で起きる「日常の謎」。こんなことを思いついた著者の発想力がスゴイ。

 戦場の最前線が舞台なので、殺伐としたシーンも多い。死体が山積み、なんてことが珍しくない。ハッピーエンドなのかどうかも分からない。そういうネガティブな素材を、謎解きとユーモアと人情と友情という各種スパイスで味付けして、食べやすい料理に仕上げた。そんな作品だ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

ジェネラル・ルージュの凱旋

書影

著 者:海堂尊
出版社:宝島社
出版日:2007年4月22日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ヒット作「チーム・バチスタの栄光」から始まる「田口・白鳥シリーズ(著者は「東城大学シリーズ」としているそうだ)」の第3作。大学病院で起きた収賄疑惑事件を追う。

 読み始めてすぐに、強烈な既視感。「これ前に読んだことある?」と疑問が湧いた。実は、本書が描くのは、前作「ナイチンゲールの沈黙」と、同じ舞台で同時並行的に起きたもう一つの事件。だから当然、前作と同じ出来事が本書でも起きる。私の既視感の原因はそういうこと。

 主人公は田口公平。東城大学医学部付属病院で「不定愁訴外来(通称愚痴外来)」の責任者。ある日、田口が委員長を務める「リスクマネジメント委員会」宛に文書が届く。「救急救命センターの速水部長が、業者と癒着して収賄している」という告発状だ。

 物語は、速水部長は本当に収賄をしたのか?その場合の処分はどうなるのか?そもそもこの告発状は誰が何の目的で出したのか?といった、ミステリーとして展開される。

 面白かった。これまでのシリーズ3作の中で一番楽しめた。悪者の悪者っぷりが良かったし、看護師たちの活躍も痛快だった。そして何よりも、ジェネラル・ルージュ(血まみれ将軍)こと、救急救命センターの速水部長が(収賄の容疑者なのに)カッコいい。

 「キャラの立った」登場人物も、このシリーズの魅力。ただし今回は、それは少し控えめだった(新登場の姫宮さんはすごくよかった)。そのおかげもあって、シリーズの主題がよく見えてきたように思う。

 それは、現代医療が抱える「医療と経営と倫理」の問題に切り込む、コミカルにも思えるストーリー展開には似合わない、ずっしりと重いものらしい。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

陽気なギャングは三つ数えろ

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2015年10月20日 初版第1刷 10月30日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。「陽気なギャングが地球を回す」「~の日常と襲撃」に続くシリーズの第3弾。

 主人公は、お馴染みの響野、成瀬、久遠、雪子の4人組の銀行強盗たち。銀行強盗は2年ぶりだと言っているし、係長だった成瀬は課長になっているし、(第1弾で)中学生だった雪子の息子の慎一くんは大学生になっている。確実に時間が流れている、ということだ。

 時間は流れても彼らは変わらない。冒頭の響野の演説で「あぁあいつらが帰って来た」と感じた。「理由や意味のあることをほとんど言わない」という響野は、強盗に入った銀行で、カウンターに登って演説をする。

 その演説の間に仕事を終えて現場からは、正確無比な体内時計と超絶運転テクニックを持った雪子の車で逃走する。それが彼らのスタイル。ところが今回は現場から立ち去る時にアクシデントがあり、それが事件の発端。

 失踪したアイドルを追う怪しい雑誌記者に関わる→雑誌記者が通う会員制ギャンブルを開くギャンググループに関わる→追われる身になる..といった「巻き込まれ型」の展開で、テンポよく物語が進む。ちょっとした伏線が後で効いてくる。これまでのシリーズの良さが、そのまま生きている。

 「あとがき」に伊坂さん自身が書いているように、伊坂作品にはシリーズものは少ない。「この先どうなるのか分からない」話を書きたい、というのがその理由のひとつだそうだ。この「陽気なギャング」シリーズだって、簡単には先は読めないのだけれど、「お馴染みの雰囲気」が楽しめるという安心感はあって、それが心地いい。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

天空の蜂

書影

著 者:東野圭吾
出版社:講談社
出版日:1998年11月15日 第1刷 2015年7月21日 第68刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 20年前に刊行された本書を原作とした、同名の映画がロードショー中。9月12日の公開前後にはCMも流れていたのでご覧になった方もいるだろう。

 時代は刊行時と同時代、つまり今から20年前。その日、防衛庁に納められる予定だった、胴体長33.7mという超大型ヘリコプター、通称「ビッグB」が何者かに盗まれる。遠隔操作という前代未聞の方法で。「ビッグB」は、敦賀半島北端にある原子力発電所に飛来し、原子炉の真上で停止する。

 犯人からの要求はシンプルだが、政府に重大な決断を迫るものだった。「稼働中、点検中の原発をすべて使用不能にすること。建設中の原発は、すべて建設を中止すること」。その要求が受け入れられない場合は「ビッグB」を原子炉に墜落させる..。

 本書は文庫本で600ページ超もある長編だけれど、ここまでわずか50ページあまり。このスピード感のまま、「ビッグB」の設計者、原発の関係者、犯人を追う警察官、そして事件の犯人その人など、多くの登場人物のストーリーを並行して描く。息をつく間もない、とはこのことだ。

 本書が投げかけるテーマは重い。福島の原発事故を予見するかのようなストーリーに寒気を覚える。犯人の最後のメッセージは私たちへの警告だ。思えば私たちは何度か警告を受け取っているのに、それを生かせていないのではないか?

 本書を多くの人に読んでもらいたい。映画も観てもらいたい。

 映画「天空の蜂」公式サイト

 にほんブログ村「東野圭吾」ブログコミュニティへ
 (東野圭吾さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

ブラック・ベルベット

書影

著 者:恩田陸
出版社:双葉社
出版日:2015年5月24日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の現在の最新刊。著者の作品はとても多様で、「ドミノ」のようにエンタテイメントに徹したコメディや、「上と外」のようなアドベンチャーは、私の大好きなジャンルだ。その他には「チョコレートコスモス」も「夜のピクニック」もよかった。ただ、私が苦手なホラー系の作品もあるので、なんとなく敬遠していて、著者の単行本作品を読むのは3年ぶり。

 帯を見て「失敗したかな?」と思った。「凄腕ウィルスハンター・神原恵弥シリーズ最新刊!」と書いてあったからだ。本書はシリーズものの第3弾らしい。それでも「まぁいいか」と思い直して読み始めた。

 結果から言うと、いきなり第3弾を読んでも楽しめた。登場人物やエピソードに、過去の作品をにおわせるものが少なからずあるので、順番に読むに越したことはないのだろう。それでも本書は本書だけで独立した物語になっている。

 主人公はシリーズ名にもなっている神原恵弥。米国の製薬会社に所属し、新薬開発につながる情報を探る調査員。敏腕で美形でバイセクシャル。ちなみに恵弥は「めぐみ」と読むけれど男性。でも女言葉を使うし、バイセクシャルなのでかつては男性の恋人もいた。なかなか濃いキャラクターだ。

 物語はショッキングな幕開けをする。恵弥が追っている女性が目の前で暴漢に刺殺される。場所は東西文化の交差点であるT共和国。旧知の国立感染症研究所の研究員から捜索を依頼され、その女性を発見して、接触を試みようとした矢先の出来事。

 ジャンルとしてはミステリーなので、ストーリーを詳しくは紹介しない。このあとT共和国に住む恵弥の高校の同級生との道行きで、薬物事件に絡んで様々な事件が立て続けに起きる。そのどれもが、輪郭を欠いたようにどこかあやふやな感じがする。

 この「あやふやな感じ」が、最後に来て明瞭になるのが本書の醍醐味。それまで見えていた風景が違って見える。(実は私には今一つ腑に落ちないことがあるのだけれど...)

 にほんブログ村「恩田陸」ブログコミュニティへ
 (恩田陸さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

ジャイロスコープ

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社
出版日:2015年7月1日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 帯に「初文庫オリジナル短編集」と書いてある。単行本の文庫化でなく、最初から文庫で出版された、ということがウリらしい。著者には「連作短編集」でない短編集はあまりなく、私の記憶では「フィッシュストーリー」だけだと思う。それが何を意味するのかは分からないけれど。

 本書は「浜田青年ホントスカ」「ギア」「二月下旬から三月上旬」「if」「一人では無理がある」「彗星さんたち」「後ろの声がうるさい」の7編を収録。最後の「後ろの声がうるさい」が書下ろしで、その他は小説雑誌やアンソロジーに掲載された作品を改稿したもの。

 「浜田青年ホントスカ」は、「蝦蟇倉市事件1」というアンソロジーに収録されていて既読だった。短い中にピリッとスパイスの効いた展開で、なかなか楽しめる。ただ、アンソロジーで他の作家さんとの競作だからこそ生きるエピソードがある。そこから切り離してしまうのはもったいない気がする。

 楽しめた作品を一つ挙げるとすると「彗星さんたち」だ。新幹線の掃除をする作業員の話。伊坂幸太郎流「お仕事小説」。離婚して小学校三年生の娘を育てている30代の女性が主人公。
 自分の感情を言葉にして伝えるのが苦手で、「掃除だけしてればいい」と思って始めた。そんな彼女が「チームの一員」になっていく様が清々しい。もちろん伊坂さんらしい「しかけ」もある。

 ちなみに、新幹線の掃除の作業員と言えば、今年1月に公開された「7分間の奇跡」という動画が、ネットで大きな話題になった。この短編は2013年の作品だから、こちらの方が断然早い。

 いろいろなところから集めたバラバラさ加減がいい。皮肉で言っているのではない。タイトルの「ジャイロスコープ」は、回転によってバランスを保つ仕組みになっている。ある年齢以上の人には「地球ゴマ」と言えば分かるだろうか。違う個性を持った作品でバランスを保っているのだ。

 「ジャイロスコープ」の説明が、扉のページの裏に何気ない風を装って書いてあるので、読み落とさないように。「読み落とさないように」という意味では、巻末に「十五年を振り返って」という、伊坂さんのインタビューが収録されている。ファンなら読みたいはず。読んで損はない。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

ナイチンゲールの沈黙

書影

著 者:海堂尊
出版社:宝島社
出版日:2006年10月21日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ヒット作「チーム・バチスタの栄光」の続編。前作で起きた、大学病院を揺るがした、最先端医療の花形チームのスキャンダルから9か月後、という設定。

 主人公と舞台は前作と同じ。主人公は田口公平。東城大学医学部付属病院で「不定愁訴外来(通称愚痴外来)」の責任者。舞台はこの大学病院。前回は外科チームで事件が起きたが、今回は主に小児科での出来事を描く。

 タイトルの「ナイチンゲール」は、ダブルミーニングで使われている。1つは、フローレンス・ナイチンゲール。看護師の象徴的に扱われているクリミア戦争に従軍した看護婦。もう1つは「小夜啼鳥」、英語名がNightingale。夕暮れ後や夜明け前に美しい声で鳴く鳥の名だ。

 小児科病棟の看護師の浜田小夜が、今回の準主人公。その歌声には誰もが魅了され、忘年会では大賞を受賞する。彼女が立ち寄ったライブハウスで急病人が出て、救命救急センターに搬送される。その後にも、彼女の周囲で様々な出来事が続く。そして物語は殺人事件に発展していく。

 このシリーズの特長というか楽しみは、個性的なキャラクターの登場にある。前作で見せた傍若無人な振る舞いが、なぜか憎めない厚生労働省の調査官の白鳥佳輔が再び登場する。さらに今回は白鳥の同級生という、刑事の加納達也が加わる。あと「ガンガントンネルの魔人」なんていうのもいる。

 小児科が主な舞台なので、子どもの患者が多く出てくる。それぞれが背負うものを思うと、胸が潰れる思いがする。そこを個性的なキャラクターやテンポのいい会話によって、暗くならなずに読めるようになっている。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)