3.ミステリー

ロスト・シンボル(上)(下)

書影
書影

著 者:ダン・ブラウン 訳:越前敏弥
出版社:角川書店
出版日:2010年3月3日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「天使と悪魔」「ダ・ヴィンチ・コード」に続く、ラングドンシリーズの3作目。前2作ではキリスト教にまつわる秘密をめぐる陰謀が描かれていたが、今回はフリーメイソンが秘匿する「秘密のピラミッド」と「古の神秘」に迫る。

 フリーメイソンは「ダ・ヴィンチ・コード」でも言及されている。欧米では政府要人などの有力者の会員が多いからか、世界的な秘密結社で様々な陰謀説がささやかれている。また宗教的な儀式が重んじられるという情報から、オカルト的な噂も絶えない。
 本書は、フリーメイソンから導かれるこうした印象に加えて、次の事実などを背景として首都ワシントンD.C.を舞台としたサスペンスに仕上がっている。(1)ワシントンやフランクリンといった米国建国の父らがフリーメイソンであった (2)ワシントンD.C.に高さ169メートルもの巨大なオベリスク様建造物(ワシントン記念塔)がある (3)1ドル札にピラミッドと「目」が描かれている

 良くも悪くも過去2作のラングドンシリーズ、さらには他のノン・シリーズも含めた著者の作風を踏襲した作品だ。秘密めいた団体、象徴に隠された意味、謎につつまれた敵。そして敵に奪われた友、その友の肉親の美女と運命を共にした、敵だけでなく公権力の追跡からも逃げる逃避行。
 今回の美女のキャサリンは50歳で、ずいぶんお年を召しているなぁと思ったが、ラングドンとは同年代でつり合いはいい。「いやいや50歳になっても魅力的っていうのがスゴイじゃない?」なんて、年寄扱いしていてふと気が付いた。私もあと3年あまりで50歳だ(!)。

 上に「良くも悪くも」と書いた。良い方は、いつものとおり「秘密」に対する好奇心を刺激されるワクワクする物語だったこと。全編で12時間という短い時間のなかで展開するスピード感。悪い方は、何となく先が読めてしまうこと。さらに今回は迫る危機や敵が一回りも二回りも小さい気がする。同じ枠組みで続けるのは楽なようでいて、前を上回る新たな物語を創り出すのは大変なのだと思う。

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オー!ファーザー

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社
出版日:2010年3月25日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は2006年から2007年にかけて、いくつかの地方新聞に掲載された、いわゆる「新聞小説」に加筆修正したもの。発表の時期的には「ゴールデンスランバー」の直前。著者自身のあとがきによると、「あまり好きな表現ではない」と断りながら、「ゴールデンスランバー」以降が第二期と呼べるかもしれない、とある。つまり本書は、著者の第一期最後の作品なのだ。
 このブログで度々触れているが、気の利いた会話や愛すべきキャラクター、そして巧みな伏線が著者の作品の人気の理由だと思う。そしてそれは著者がいう第一期の作品に色濃く出ていた。当然、第一期最後の作品である本書にもその特長が強く出ている。

 主人公は高校2年生男子の由紀夫。成績は優秀、バスケの選手でスポーツ万能、どうやら腕っぷしも強いらしい。女の子の扱いも上手くて、まるで昔の少女マンガの「あこがれの先輩」みたいな人物造形だけれど、なぜかイヤミがない。読んでいて不思議なことに「普通の男の子」に感じられる。
 普通でないのは由紀夫の家族だ。彼には父親が4人いる。大学教授の悟、中学の熱血体育教師の勲、ギャンブラーの鷹、元ホストの葵、の4人だ。詳しい事情は省いて、とにかくこの4人の父親と母親と由紀夫の6人で暮らしている。
 子は親に似ると言われるが、由紀夫はこの4人の父親のそれぞれに似たのだ。その結果が上に書いた人物造形なのだ。イヤミがないのは、もったいぶったところのない鷹に似たからだろうか。いや、もったいぶったところがないのは4人ともかもしれない。

 正直に言って読み終わった直後は、すごく面白いとは思わなかった。私が大好きな「伏線」は、方々に配置してあって堪能したけれど、もう少し何かが欲しかった。リアリティには欠けるかもしれないが、「面白ければOK」だと思う私はそれは求めてはいない。強いて言えば期待が大きすぎたかも。出会う人、横を通る車、それら全部を「伏線かもしれない」と思って記憶しておこうとしたのがいけなかった。
 読み終わってしばらくして本書を眺め直すと、これはやっぱり面白かった。そしてこれは理想の父親を描いた作品だった。由紀夫は、優しく素直な性格故に、大小さまざまな事件に巻き込まれるのだけれど、心強いことに彼には頼りになる父親が、それも4人もいる。(いや、4人いてやっと「理想の父親」が完成ともいえる)。
 「オー!ファーザー」には、いろいろなニュアンスが込められているが、ピンチの時に現れた父親への「あぁ父さん」という安堵と喜びの言葉でもある。

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螺旋階段のアリス

書影

著 者:加納朋子
出版社:文藝春秋
出版日:2000年11月20日 第1刷 12月10日 第2刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は、日常に潜む不思議を描く連作短編集が持ち味。「日常の不思議」を解き明かすということで言えば、本書に登場する「探偵」ほどうってつけの登場人物はいない。何しろ謎解きを専門とする職業なのだから。ただし、明智や金田一やポアロやクィーンら、難事件を見事に解決する探偵を想像してはいけない。
 本書の主人公は会社の早期退職者支援制度を利用して、脱サラして探偵事務所を開いた仁木順平。当然、そうそう簡単に仕事の依頼は来ない。来ても仁木が期待するようなハードボイルド系の依頼はない。カギを探して欲しいとか、犬を探して欲しいとか、浮気調査かと思えば「浮気してない調査」だとか。

 でも不思議を描くのが巧みな著者のことだから、もちろん話はそう単純ではない。カギ探しだってただのカギ探しではない、犬探しも浮気してない調査も、背後には全く別の事件が隠されている。解決すべきは表面に見える依頼ではなく、背後の事件の方。
 さらにこの謎を解き明かすのは仁木ではなく、フラッとこの事務所に来て居ついた、高級少女服のカタログから抜け出したような美少女の安梨沙。探偵らしくない探偵、事件の依頼にはウラがあり、お茶くみ兼務の助手にしか見えない美少女の一言が事件を解決に..と、何度もひねった筋書きが「さすが」と思わせる。しかも「ひねり」はこれで全部ではないのだからスゴイ。

 仁木と安梨沙の探偵稼業の物語をもっと読みたいと思っていたら、続編があった。「虹の家のアリス」。近々読みたいと思う。

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一角獣の殺人

書影

著 者:カーター・ディクソン 訳:田中潤司
出版社:東京創元社
出版日:2009年12月25日第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 不勉強のため知らなかったのだけれど、著者は本書のカーター・ディクスンの他、本名のジョン・ディクスン・カーなどの名義で、1930年から70年代にかけて実に80作余り、特に30年代には年に4作も5作もを発表している。つまりは超売れっ子作家であったわけだ。本書はその全盛期とも言える1935年の作品。

 主人公は元英国情報部員のケンウッド・ブレイク。彼が元情報部員というだけでなく、この物語は英仏の国境を越えた、英国情報部の極秘任務という、まさに007ジェームズ・ボンドの映画の世界。発表年から心配される「古くささ」を全く感じることなく楽しめた。
 舞台はフランスの古城。嵐の中近くにマルセイユからパリに向かう飛行機の定期便が不時着した。乗客の中には神出鬼没の怪盗と名探偵の警部が、それぞれ正体を隠して潜んでいるらしい。怪盗の狙いは「一角獣」、これまた正体不明なのだがどうやらロンドンへ輸送中のお宝らしい。
 主人公のケンウッドは、旧知の美女の情報部員となんと英国情報部長と共に、この古城に乗客らと共に避難して来た。(この英国情報部長のヘンリー・メリヴェール卿が、どうやら著者の作品の主役キャラクターらしい)

 城の主や下働きの者を含めて十数人が滞在する城で、誰が怪盗なのか警部なのか分からないまま、殺人事件が起きる。頭を長い円錐状のもので突き刺した跡がある死体が、階段の踊り場に残された。階段の上にも下にも人がいる中での凶行だが、犯人はおろか凶器さえ見つからない。やはりタイトルの通り「一角獣」の仕業なのか?
 著者は「密室の王者」という異名を持つそうだが、今回は密室どころか階段という完全なオープンスペースでの犯罪。だが、不可能犯罪としては密室以上と言える。「どうしたってこれはムリでしょう」という感じなのだが、ちゃんと謎解きもある。
 美女の情報部員が早々に登場した時に、主人公とどうにかなるのだろうなぁ、と思ったのは、007の映画のせいだろうか?

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SOSの猿

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:中央公論新社
出版日:2009年11月25日 初版発行 
評 価:☆☆☆(説明)

 「伏線を回収して最後に全部かっちり収まる、バランスの良いもの」。これは、本書の出版に当たって出版社の特設ホームページに掲載されたインタービューで語った、著者自身が持っている自らの作品のイメージだ。付け加えるとすれば「気の利いた会話や、突き抜けた愛すべきキャラクター」などがあげられるが、私もその通りだと思うし、そのような作品を読みたいと思う。
 しかし著者は、同じインタビューの中で「どこか破綻しているもの、ちゃんと解決しない部分があったり、不可解な部分があるほうが好きなんですよ」と言い、「あるキング」からは意図的に変えて、バランスの崩し方を手探りしていたらしい。そして本書は「最近のやりたいことが一番よくできた「理想型」」という評価をしている。

 その本書について。物語は主人公の遠藤が、知り合いの女性からひきこもり中の息子の眞人のことで、相談というかお願いを受けるところから始まる。女性は遠藤のことを「訪問カウンセラー」だと聞いてきたようだが、彼はイタリアで「悪魔祓い(エクソシスト)」のトレーニングを受け、帰国後も依頼に応じてそうしたことをやっているのだった。
 「エクソシスト」がどの程度本当に「悪魔」を祓う仕事なのかはわからないが、「悪魔が憑いた」としか言いようのない状況を見せる人々を救う仕事をしている人は実際にいるのだそうだ。遠藤はそうしたエクソシストの一人に付いてアシスタントをしていた。
 精神的な疾患ならば、それを治すのは専門医の仕事であって、遠藤の分野ではない。彼もそう思いながらも、断ることができずに女性の家を訪ねる。そして..めまいに似た感覚や遠藤が見た眞人の様子は、これが「遠藤の分野」のことであることを示していた..。
 この遠藤の視点の「私の話」と、「猿の話」というシステム開発の品質管理を仕事とする五十嵐の話が、交互に語られる。そして株の誤発注や、監禁虐待事件、夜のコンビニの駐車場で合唱するコーラス隊などがストーリーに絡む。この辺りで「気の利いた会話や~」は健在で、これまでと変わりなく味わえる。

 話は戻るが、著者が「あるキング」からは意図的に変えようとしたと聞けば、大方の伊坂ファンは「あぁやっぱり」と思うだろう。そのぐらい「あるキング」はそれまでの作品と違っていた。確かにバランスが崩れていた。本書はそれほどでもないが少し据わりが悪い。
 まぁ著者の意図だから当然だし、私も嫌いではないのでお付き合いさせていただく。しかし、どうか程良いバランスの崩し方に留まって欲しい。そして「気の利いた会話や~」まで失うようなことのないようにして欲しい。

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聖女の救済

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2008年10月25日 第1刷 10月30日 第2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 私にとっては「容疑者Xの献身」「流星の絆」に続いて3つめの作品。多作な著者の作品には、読んでみたい作品がたくさんあるのだけれど、最寄りの図書館には名前の札だけがあって、全部貸出中ということが多いので、タイミングがうまく合わないようだ。

 事件は被害者の自宅のリビングルームで起きた。おそらく1人でいる時に、自分で淹れたコーヒーを飲んで毒殺されたのだ。毒物の混入経路は、水道か、ペットボトルか、ケトルか、カップか?そして犯人は?...
 実は犯人は事件より前に、最初の1章で早くも提示される。いわゆる倒叙形式だ。だから読者の楽しみは犯人探しではなく、天才物理学者の湯川の協力を得て警察が犯人を捜し当てる過程の追体験と、犯行の方法の推理だ。
 この犯行方法が本書の一番の見どころと言って過言ではない。警察の面々ではお手上げなのはまだしも、今回は湯川でさえ苦戦する。曰く「理論的には考えられても、現実的にはありえない」「~これは完全犯罪だ」

 例によって私もあれやこれや考えながら読んだ。犯行方法のトリックは分からなかったが、それなりにポイントはつかめていた。いや、著者がちゃんと分かるようにヒントを配置しておいてくれたのだ。読者があれやこれやと考えることができるように。
 内海という女性の刑事が登場するのだが、テレビドラマの企画で創造された人で、本書と「ガリレオの苦悩」から原作でも登場するようになったらしい。この人がいることによって、犯罪捜査以外のドラマ性も加わった。

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砂漠

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:実業之日本社
出版日:2005年12月15日 初版第1刷 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の2005年の描き下ろし作品。2008年に同じ出版社から「Jノベル・コレクション」というレーベルで、ソフトカバーの単行本も出ている。大学生を主人公とした青春小説。大学生が主人公ということでは「アヒルと鴨とコインロッカー」もそうだが、本書の方が「青春」成分が多く配合されている。

 主人公は北村、仙台の国立大学に入学したばかりの男子大学生。物語の始まりは、4月第一週のクラスコンパだ。そこで、鳥井(男)、南(女)、東堂(女)、西嶋(男)の4人と出会う。「俺、鳥井っていうんだ」とか「練馬区から来た、南です」なんて自己紹介なんかしたりして、冒頭から「青春」の甘酸っぱい香りがする。
 そして、鳥井のマンションに押しかけてって麻雀はするわ、夏にはこの男3女2で海に出かけるわ、男は合コンに余念がないわ、片思いや告白があるわで、「青春」が加速する。あとは夕日に向かって叫ぶシーンがあれば..と思うが、そこまで行くと冗談になってしまう。
 その手前のギリギリのセンで留まることで、「砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」というセリフにもリアリティが感じられる。もちろん「砂漠に雪を降らす」リアリティではない。「その気になれば何でもできる」って、あの頃は思えるんだよなぁ、というリアリティだ。

 これでは、くっついたり離れたりの恋愛系ライトノベルのようだが、著者の作品だからもちろんこれで終わりではない。犯罪組織との確執を軸としたミステリーあり、著者の持ち味の伏線あり、個性が際立つキャラクターもありで、伊坂ワールドが結晶したような作品だ。伊坂ファンにもそうでない人にもオススメ。
 そうそう、著者の作品には作品間のリンクがあることで有名だが、本書にもチラっと「チルドレン」の「あの人」が出てくる。そして「チルドレン」を読み返すと、この本の「この人」がちゃんと出ている。つまり相互リンク。著者は、チルドレンの時点でこのリンクを仕込んだということなんだろうか?

 本書で、これまでに単行本として出版されたアンソロジー以外の著者の作品は、すべて読んだことになりました。コンプリート達成!
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陽気なギャングの日常と襲撃

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2006年5月20日 初版第1刷発行 6月10日 第6刷発行 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「陽気なギャングが地球を回す」の続編。あの銀行強盗の4人組が帰ってきた。演説(内容はまったくない)の達人 響野、人間ウソ発見器 成瀬、動物を愛する天才スリ 久遠、精密体内時計を持つ天才ドライバー 雪子。

 今回の物語は、成瀬の職場である市役所から始まる。定年退職したばかりの男性から「最近、町に変な奴がうろついている」という訴えが持ち込まれる。これが発端となって4人は、大がかりな犯罪組織と事件に巻き込まれる。
 全部で4章からなる内の第1章は、4人がそれぞれ別々の事件に遭遇して、持ち前の才能を生かして一応の解決を見る。「あぁ今回はこういう趣向なのね」と、短編集なのかと思っていた。「それはそれで面白そうじゃん」とも思った。
 ところが、第1章は前ふりで、第2章以降に起きる様々な事件に、あるものは緊密に別のものは緩やかに絡んでくる。響野が経営する喫茶店「ロマン」で交わされる、空疎で上っすべりな会話も、後になって意味を持ってくる。巧みな伏線が特長の伊坂作品の魅力が今回も生きている。

 最初私が短編集だと思ったのもムリはなく、第1章は2004年から2005年にかけて月刊誌「小説NON」に載った4つの短編を改稿したものだそうだ。以降の描き下ろし部分につなげるために「大掛かりな」改稿をしたそうなので、月刊誌の読者も第1章から読んだ方がいい。もっと言えば、「陽気なギャングが地球を回す」のエピソードが関連する部分もあるので、1作目から順番に読んだ方がいいと思う。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

モノレールねこ

書影

著 者:加納朋子
出版社:文藝春秋
出版日:2006年11月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 やさしい雰囲気の中で、ちょっと不思議で時に切ない話を書く著者。本書は文芸誌などの様々な媒体に書かれた短編を8編収めた短篇集。著者の作品で「ななつのこ」や「レイン・レインボウ」、「ささらさや」などは、短編同士にもつながりがある「連作短篇集」だが、本書は(ちょっと残念だが)それぞれが完全に独立した物語。

 いろいろな加納作品が楽しめる、という意味ではおトクな本。不思議系の「パズルの中の犬」と「シンデレラのお城」。どうしようもなくダメな肉親を描いた「マイ・フーリッシュ・アンクル」と「ポトスの樹」。ほろっとさせる「いい話」系の「セイムタイム・ネクストイヤー」「ちょうちょう」、さらにそこに笑いを振りかけた「バルタン最後の日」。そしてオチが巧みな表題作「モノレールねこ」
 「各種取り揃えました」という感じの短篇集だけれど、多くの収録作品に通じるテーマは「家族」。それは「家族を欠いた」ことで始まる物語であったり、「家族の過去」に触れる出来事であったり、「偽りの家族」の物語であったりする。

 一番好きな作品を1編だけ紹介する。それは「バルタン最後の日」。ディズニーランドに行くと、しばらくは粗食を覚悟せねばならないという、慎ましい暮らしをしている家族。その家の少年フータが釣ってきたザリガニの「バルタン」が主人公。
 悪意はないのだがザリガニの飼い方を知らない家族。「バルタン」は家族の不注意による生命の危機を幾度も乗り越える。そして、家族はなぜか「バルタン」にだけ思いを吐露する。みんな何かを心に抱えている。家族を想うあまりそれが言えないなんて..。「バルタン」もいいヤツなんだけれど、私は「お母さん」に泣けた。

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あるキング

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:徳間書店
出版日:2012年8月15日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、3年前に出版された単行本を文庫化したもの。先日新聞に載った本書の広告に「全面改稿(大幅改稿だったかも?)」の文字が躍っていた。何の義務も強制もないのに、「これは読まねば」と思って書店で購入した。

 山田王求という、ある天才野球選手の生涯が綴られた物語。王求の両親は、仙醍キングスというプロ野球チームの熱烈なファンで、「王(キングス)に求められる」という意味で「王求(おうく)」と名付けた。そして、王求は尋常ではない才能と練習によって一流の野球選手に成長する。その過程が、〇歳、三歳、十歳、十二歳…と、王求の成長の節目ごとに章を建てて描く。

 広告にも裏表紙にも「いままでの伊坂幸太郎作品とは違います」と書いてある。しかしそれは、単行本の出版時に、多くの読者が思ったことでもある。王求の周囲には、魔女やら四足の獣やら謎の男やらと、得体の知れないものがチラチラと登場する。
 それまでは「パズルのピースがピタッとハマる」感じだったのに、この得体の知れないもののために、この作品は何となく「不安定な感じ」なのだ。インタビューなどで著者自身が、この作品から意図的に変えた、という主旨のことをお話になってもいる。この文庫本では、そこをセールスポイントとしたらしい。

 そうした出版サイドの思惑に反することになるが、私は本書は単行本と比較して「それまでの伊坂作品」らしくなったと感じた。それを確かめるために、本書を読んだ後に、突き合わせるように単行本を再読してみた。それで主には、シェイクスピアの「マクベス」に関する話題が追加されていることが分かった(そのために私は「マクベス」まで読み直してしまった)。魔女は「マクベス」にも登場する。これで魔女の得体が少し知れたので、不安定感がぐっと下がったようだ。

 また「文庫版あとがき」で著者が、「もう少し分かりやすく」と考えた、と書かれているが、そのために「マクベス」以外にも、実に実に細かい改稿がされている。伏線や気の効いたセリフなども盛り込まれた。まさに「それまでの伊坂作品」のように。私は、この文庫版の方が好きだし、おススメもする(☆も3つから4つに増やした)。

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