著 者:リチャード・フォーティ 訳:渡辺政隆
出版社:草思社
出版日:2003年3月10日第1刷 2003年3月26日第3刷
評 価:☆☆☆(説明)
原題は「LIFE -An Unautorized Biography-」、訳せば「生命 その非公認の伝記」とでもなるのか(もうちょっとマシな訳があればいいのだけれど)。本書は、生命を主人公に見立てて、その生い立ちからこれまで(正確には人類の誕生まで)の40億年を、一つの物語として書いた野心的な本だ。
ちなみに、日本では伝記というと過去の偉人の生涯を書いた、ちょっと教育色の強いものを思い浮かべるが、欧米では現役の著名人の生い立ちを、本人の了解を得ずに出版することも珍しくないらしく、それが「Unautorized Biography」。旬の話題で言うと「Barack H. Obama: The Unauthorized Biography」なんてのがある。
読み応えのある本だった。まぁ490ページが長いか否かはそれぞれの意見があるだろうが、40億年分の歴史を思い入れを交えながら丁寧に記述した物語は、ズシリとした手応えがあった。著者は、大英自然史博物館の主席研究員、英国古生物学会の元会長で三葉虫をこよなく愛している。その著者が持てる知識と情熱を注いだ物語なのだから、読む方もしっかり構えないと受け取れない。
本書によると、海の中で無生物を生物に転ずる生命の火がたった1度だけ火花を散らした、それが遅くとも38億年前、藻類の微細な化石が残されたのは10億年前、脊椎動物の祖先とみられる動物の化石は5億数千年前だ。その後、生命は上陸を果たし、1億9千万年前に恐竜が出現、6500万年前に絶滅…、我々ホモ・サピエンスの登場はわずか10万年前、とこのあたりは良く知られていることかもしれない。
こういったことを概説するだけであれば、歴史の教科書や参考書に同様のものがあるかもしれない。想像するに退屈な代物だろう。本書は、中立で公正な記述を心がけながらも、著者やその他の研究者の思いや、古生物界の様子などを交えた独特の語り口が、退屈さを払しょくしている。著者が言及する範囲は広く、指輪物語やナルニア国物語、ガリヴァー旅行記からディズニー映画まである。もちろん「ジュラシックパーク」も。(登場する恐竜の多くが「ジュラ紀」ではなくその後の「白亜紀」の恐竜なんだそうだ)
本書を読んで痛切に思うのは、生命の物語は奇跡の連続であったことだ。現生人類から遡れば進化の道は一本の道なのだけれど、その道は幾つの角を曲がるのか?「進化論」が論じる突然変異と自然選択によって、現在の多様な生物種に至るのには、幾たびの変異と選択が必要なのか?その確率を表すことは誰にもできないのだろうが、「奇跡」と言わずにはいられないほど低い確率であることは確かだと思う。
こうして考えると「神」を持ち出さずとも、進化には何らかの目的性があると考えたくなる。より有利な形質の獲得を目指す原動力のようなものがあるのではないかと。そう考えた方がうまく説明できる。しかし著者は、そうした考え方を「目的論という名の化け物」と言って、その誘惑と戦いながら物語を綴っている。時に誘惑に負けてしまいながら。
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