出版社:美術出版社
出版日:2018年2月17日 発行
評 価:☆☆☆(説明)
本書は月刊の美術の専門雑誌、その2018年3月号。私は美術鑑賞は好きで、美術館の展覧会にも月に1回ぐらいは行くのだけれど、本書を手に取ったのは「美術」への興味のためではない。この号の特集が「言葉の力。」だと知って、書店で取り寄せてもらった。「言葉」に興味があった。
結論から言うと、この特集は私が思っていたものと違った。私は、人が会話の中で発する「言葉」が、会話の相手や自分自身に及ぼす影響、という意味での「言葉の力」のことを思っていた。もちろんヘイトスピーチなどでのネガティブな力も含めて。もしくは普段読んでいる本のような「物語としての言葉の力」のことも少し考えていた。
特集の扉では、「言葉の力」から想起するものとして、「孤独を和らげてくれた誰かの一言」とか「感銘を受けた一冊の本」とかも例示している。しかし、これに続く本論での「言葉」とは、詩や短歌、演劇や音楽、ラップの中で使われる「言葉」だった。
本書では、それぞれを実践する方々が、自らが操る言葉について時に熱く、時に冷静に語っておられる。私としては、小説家の川上未映子さんと、その詩を演劇として立ち上げた、劇団主宰の藤田貴大さんの対談がとても興味深かった。
「思っていたものとは違う」と、いくらも読み進まないうちに気が付いたのだけれど、構わず読んでいるとあることに気付いた。「言葉」には「意味」と「音」の両方の属性がある、ということ。これまでの私の「言葉」観は「意味」に偏ったものだったかもしれない。
もっと言えば「音」には「韻律」や「リズム」もあるし、「意味」と「音」以外に、何かの上に書かれた「言葉」には「形」もある。「形」とはつまり「デザイン」。そんなことを考えていると、少し視野が広くなった気分がした。
そして最後に思い至ったのが、こんなことを全部この本は「言葉」で私に伝えたことだ。この特集は「言葉の力」を、私に理解させるのではなく、感じさせることに成功した、と言える。
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