9.その他

スピーチライター 言葉で世界を変える仕事

書影

著 者:蔭山洋介
出版社:KADOKAWA
出版日:2015年1月10日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 通勤の車のなかで聞こえて来たラジオで、著者がお話をされているのを聞いて、ちょっと興味が湧いたので読んでみた。

 2006年からスピーチライターの仕事をしているという著者。当時の日本では、スピーチライターという職業は全く認知されていなかった。2008年のオバマ大統領の「Yes We can」で状況が一変し、現在では日本でもその存在が定着しつつある、という。

 ちなみにスピーチライターとは、結婚式から大統領の就任演説まで、大小あるスピーチの原稿を書き、場合によっては話し方を含む全体をプロデュースする仕事。
 本書は、そうしたスピーチライターの役割や仕事の内容、実際の仕事の進め方などを、噛んで含めるように解説する。最終章は、スピーチライターになりたい人のためのアドバイス。著者には、この職業を社会により定着させたい、という思いがあるのだろう。

 私がスピーチライターなるものに最初に興味を持ったのは、「ザ・ホワイトハウス(The West Wing)」という米国のドラマでだった。そこではスタッフが演説に入れる言葉を、考えを振り絞るようにして吟味していた。「あぁ、こうやって「空気」や「流れ」が作られるんだ」と思った。

 私のこの思いには、少し否定的な気持ちが含まれている。「甘い言葉に騙されてはいけない」という警戒心が、「用意周到に作られた言葉には、ウソが混じっている」という疑いを呼び起こすからだ。私だけでなく日本では、「言葉」より「態度」や「付き合い」といったものを重んじる慣習があると思う。「あの人は言葉だけ」「言葉では何とでも言える」と言うように。

 スピーチライターが日本でこれまで認知されてこなかったのには、こいうった事情があることは、著者も書いている。では、ここにきて「存在が定着しつつある」理由は?それも著者はキチンと分析している。

 国会での不毛なやり取りには辟易するし、「言葉」に対する絶望に近い落胆を感じる。しかし、自分の考えや思いを正確に伝えるには、言葉による方法しかない。「スピーチの技術」は「伝える技術」だと、この本を読んで分かった。私たちは今一度「言葉」に対する態度や評価を、再考してみた方がよいと思う。

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メディアの仕組み

書影

著 者:池上彰、津田大介
出版社:夜間飛行
出版日:2013年7月1日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 テレビのニュース解説特番には無くてはならない存在の池上彰さんと、ネットメディアでの活躍が目覚ましいジャーナリストの津田大介さんの対談。「メディアの仕組み」というタイトルだけれども、「仕組み」と聞いて思い浮かぶ、「ニュース番組では、まず記者が取材に行って..」という、チャートで表せるような「仕組み」は書かれていない。

 その代り本書に書かれているのは、「テレビにタブーはあるのか?」とか「新聞は生き残れるのか?」といった、日常で感じる疑問へのお二人の答え(津田さんが池上さんに聞いたり確かめたりする形が多いけれど)だ。二人のやり取りの向こうに「仕組み」が透けて見える。

 本書は5章構成で、第1章から順に「テレビの仕組み」「新聞の仕組み」「ネットの仕組み」「情報を世の中を動かす方法」「「伝える」力の育て方」。徐々に視線が将来へ向く、未来への展望が開ける。まとめ方も読者に優しく気が利いていると思う。

 随所に「Point」と書かれた黄色くマークされた部分がある。短いけれど的を射た言葉が多く、いくつも「あぁそうなのか」「なるほど」と思った。そのうちの2つだけを紹介する。

 1つ目は「もうこれからはメディア事業自体で稼ぐことは考えないで、不動産収入をどんどん増やしていけばいいんじゃないですか」というところ。

 民放とスポンサーの関係は、視聴者が思っているよりずっとゆるやかで、報道系の部署に人はスポンサーのことなんて一切考えないそうだ。ただそうは言っても..ということもある。TBSの「赤坂サカス」のように、別の事業で収益を上げる、というのは報道の独立性を担保するいいモデルかもしれない。

 2つ目は「「正しい情報」と「間違った情報」を瞬時に切り分ける能力ではなくて、「実は分かってないんじゃないか」という恐れを持つこと」という部分。

 これはメディア・リテラシーの話題の中で出てきた言葉。リテラシー不足が大変な惨禍を招くこともある。「自分は絶対に正しい」と思うのは危険だ。「自分の書いた本が売れても、自分は何にも変わらない」という、池上さんの言葉とともに覚え、謙虚であろうと思う。

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おとなの教養

書影

著 者:池上彰
出版社:NHK出版
出版日:2014年4月10日 第1刷 2015年3月5日 第15刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 時々、著者のこの手の本を読みたくなる。例えばこれまでに読んだののは「知らないと恥をかく世界の大問題」「日本の選択 あなたはどちらを選びますか?」「ニッポンの大問題 池上流・情報分析のヒント44」。何かこう「知識の補充」をする感じ。

 本書のテーマはタイトルどおりで「おとなの教養」。西欧の「リベラルアーツ」の7科目「文法」「修辞学」「論理学」「算術」「幾何学」「天文学」「音楽」に倣って、本書も7つのテーマを据える。

 その7つは「宗教」「宇宙」「人類の旅路」「人間と病気」「経済学」「歴史」「日本と日本人」。関係がありそうでなさそうな7つだけれど、実は1つのことが共通している。著者は、これらは全て「私たちはどこから来て、どこへ行くのか?」の答えにつながる、と考えているのだ。

 「宗教」と「歴史」の項目が面白かった。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教を並べて、これだけコンパクトにスッキリとまとめた文章を初めてみた。歴史というものの本質、中国や韓国と日本の関係のことが、すんなりと胸に落ちた。

 それから「経済学」も。恥ずかしながら私は、大学で経済学を学んだはずなのだけれど、「そういうことなのか!」と膝を打つことが数度あった。やはり「教養」が足りないなぁ、と思った。

 文部科学省が大学に出した「人文社会科学系学部の廃止や転換を促した」通知のことが報じられている。実は本書の冒頭には、そのことを見越したような部分がある。「教養」については、これまでにも政府・経済界と大学の間で綱引きがあったらしい。この文脈で見ると今回の通知の位置づけがよく分かる。

最後に印象的な言葉を。「すぐ役に立つことは、すぐに役に立たなくなる

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柘榴姫社交倶楽部

書影

著 者:水城せとな/文 樋上公実子/画 
出版社:講談社
出版日:2015年4月24日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 マンガ家の水城せとなさんの文章と、「おとぎ話の忘れ物」の画家・イラストレーターの樋上公実子さんの画の、コラボレーション作品。水城さんの作品「脳内ポイズンベリー」は、映画化されこの5月9日に公開予定。

 帯に「お菓子と姫君たちが織りなす大人のためのおとぎ話」と書いてある。「大人のための...」と書いてあるだけで、いい大人なのにドキドキしてしまう。表紙の絵を見て「私が読んでいいのか?」と思ってしまう。

 主人公は「眠り姫」。そう、魔女の呪いによっていばらの森に守られたお城で100年の眠りについたお姫様。助けに来た勇敢な王子のキスで目覚めることになる、はず...

 ところが本書の「眠り姫」は、一人で目覚めてしまう。ほろ苦いエスプレッソと、とろりと甘いジャンドゥーヤの香りによって。そして一言「聞いてた話と違う・・・・」

 こうして物語の幕が開く。シンデレラや人魚姫、白雪姫、オデットとオディールらのいる「女王様のサロン」に、眠り姫は招待される。そこで交わされる姫君たちの会話が刺激的。

 ジャンドウーヤ、ギモーヴ、ドラジェ、タルトタタン、クレームブリュレ...全部で12話あるお話のタイトルは、お菓子の名前になっている。それもあって物語が全体的に甘い雰囲気に包まれている。

 ただし「甘い」には、「危険な誘惑」が隠されている。魅力的、魅惑的、蠱惑的な樋上さんの画が、その雰囲気を増幅させている。まさにコラボレーション。

 映画「脳内ポイズンベリー」公式サイト

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自閉症の僕が跳びはねる理由

書影

著 者:東田直樹
出版社:エスコアール
出版日:2007年2月28日 初版第1刷 2014年10月10日 第15刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 新聞の記事で本書の事を知って、とても興味を持ったので読んでみた。その記事には本書が28か国で出版され、英国アマゾンでは発売1週間でベストセラー、米国ではニューヨーク・タイムズが書評で紹介して発売1カ月で10万部、ということが書かれていた。

 著者は、2007年の本書の出版時には14歳の中学生。重度の自閉症で人と会話をすることができない。そんな彼が、周囲のサポートと本人の努力によって、「筆談」というコミュニケーション方法を得た。これによって彼は、初めて「自分の気持ちを伝える」ことができるようになったのだ。

 内容は著者が58の質問に答える形になっている。「大きな声はなぜ出るのですか?」「どうして何度言っても分からないのですか?」「みんなといるよりひとりが好きなのですか?」...。すべての答えが「思ってもいなかった」答えで、しかも「そうなのかと納得できる」答えだった。

 例えば、大きな変な声を出しているときは、自分が言いたくて話しているのではなくて、反射のように出ているそうだ。迷惑をかけていることも分かっているし、自分も恥ずかしい思いをしている。でも、どうやれば止められるのか分からない。

 私たちは、だいたいのことを自分の意思で始めて、自分の意思でやめることができる。だから「やめなさい」と注意する。もしやめ方がわからなかったら?そして「やめ方がわからない」と伝えることもできなかったら?相手がますます怒り出したら?彼の孤独と困惑はどれほどだろう?

 「筆談」は彼にとっての光明であるだけでなく、私たちにも多くのことをもたらした。その後にはパソコンで文章が書けるようになり本書ができた。そのおかげで私たちは自閉症の人の心の中を、初めて知ることができた。それがどれだけの恩恵であるかは、世界中で本書が売れていることが示していると思う。

 東田直樹オフィシャルサイト

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数学する精神

書影

著 者:加藤文元
出版社:中央公論新社
出版日:2007年9月25日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 友達がFacebookで感想を書いていたのを見て、面白そうだと思ったので読んでみた。

 「数学」と聞いて、特にひどい拒否感は覚えない代わりに好きでもない。そんな私が「面白そう」と思ったのは、「数学の美しさの要因は、整合性、シンプルさ、普遍的、背景の奥深さ、意外性」という説明に魅かれたから。「数学の美しさ」を少し感じることができるかもしれない。そう思った。

 本書を通して語られるのは「二項定理」という数学の定理。これを聞いてもピンと来ない。私の数学の知識はその程度、ということ。まぁピンと来ないのは私だけではないと思うので「二項定理」を説明する。

 それは、(x + y)のべき乗を展開した式を表すための公式。例えば(x + y)の3乗は、x3+3x2y+3xy2+y3。この展開式の係数つまり32y+xy2y3の太字の部分、という数字の並びを求める公式。とは言えその公式そのものはもう私の手に負えない。興味がある方は自分で調べてみてほしい。

図

 ところが私と同様に公式が手に負えない人にでも、この数字の並びを求める方法があるという。まず紙に1と書こう。下の段には上の段の左右の数字の和を書く。これを繰り返す。そうすると左の図のようになる。で、上で例に挙げたのは3乗の式なので3+1の4段目を見る。。ほらね。

 おお!と思った人は、数学が得意でなくても意外と本書が楽しめるかもしれない(数学の高等教育を受けている人はみんな知っているらしいから)。どうしても数式や数学用語が出てくるので、ちょっとがんばらないと置いて行かれそうになるけれど、分からないなりにも読み進めれば、何度もおお!と思わせてくれる。

 正直に言って「数学の美しさ」を感じるまでにはいかなかったけれど、数学の「広がりと奥深さ」とか、そこを逍遥する「楽しさ」を垣間見ることができたと思う。

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知の英断

書影

著 者:吉成真由美
出版社:NHK出版
出版日:2014年4月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 20万部超(2014年3月時点)のベストセラーとなった「知の逆転」に次ぐ、世界の叡智と呼ばれる人々へのインタビュー集の第2弾。

 前著が「現代最高の知性」と言われる「研究者」へのインタビューであったのに対して、今回は国際政治の現場で実績を積む「知の実践者」へのもの。前著よりも議論が具体的で、本書の方がずっといい。おススメ。

 サイエンスライターの著者が、世界の「長老」に現代が抱える「困難」にどう立ち向かうのか?を聴く。「長老」は6人。ジミー・カーター、フェルナンド・カルドーゾ、グロ・ハーレム・ブルントラント、メアリー・ロビンソン、マルッティ・アハティサーリ、リチャード・ブランソン。

 国際政治に造詣が深い人でなければ、全員を知っている人はいないかもしれない。でも、各インタビューの扉のページに、コンパクトな紹介があって理解を助けてくれる。例えばジミー・カーター氏は「戦争をしなかった唯一のアメリカ大統領」、フェルナンド・カルドーゾ氏は「五〇年続いたハイパーインフレを、数か月で解消した大統領」という具合に。

 感銘を受けた言葉がたくさんあった。その一つを紹介する。ジミー・カーター氏の「北朝鮮と日本との関係を緩和するためには?」という質問への答え。主旨としては「お互いに尊敬の念を持って話し合うことだ」ということ。

 これは、他の紛争にも言えることで「相手は敵で悪い奴だ」と思っているうちは、「勝ち負け」でしか決着しない。そして「負けた」方は憎悪を募らせて、次の紛争の種となる。その悪循環。さて我々に紛争の相手に「尊敬の念を持つ」度量はあるだろうか?

 最後に、あまりに的確で脱力さえしてしまった言葉。アイルランド初の女性大統領で、現在はアフリカ大湖地域の紛争解決を担う国連特使のメアリー・ロビンソン氏の、現在の様々な「和平会議」を表したもの。「悪い男たちが悪い男たちと話をしては、お互いに許しあったりしている」。まったくその通り。

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虫眼とアニ眼

書影

著 者:養老孟司、宮崎駿
出版社:新潮社
出版日:2008年2月1日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 解剖学者の養老孟司さんと、スタジオジブリの宮崎駿さんの対談集。対談の時期は1997年、1998年、2001年の3回。ざっと15年ぐらい前になる。「もののけ姫」が1997年、「千と千尋の神隠し」が2001年の公開。養老さんの「バカの壁」は2003年、この対談はそれよりも前だ。

 タイトルの「虫眼とアニ眼」について。「虫眼」は「小さな虫の動きも逃さず捉えて感動できる」眼のこと。少年のころはみんなが持っていたのに、いつか無くしてしまう。その点、養老さんは昆虫採集が趣味で、今でも「虫眼」を持っているらしい。「アニ眼」は、もちろんアニメとの語呂合わせだ。

 この2人が雑誌のインタビュアー(3つの対談はそれぞれ別の雑誌の記事になったもの)を交えて、日本の自然のこと、社会のこと、教育のこと、お互いのことを語り合っている。最初の対談で相通じるものを感じたらしく、とても自然体でおおらかに会話が進む。年代が近いことも作用しているのだろう。

 感じたことを2つ。1つめ。宮崎駿さんは、私とは年代も違うし立場も違うし..というより共通点を見つける方が難しいのだけれど、共感できることがいくつもあった。例えば「子育て」について。「極端なのは放っておいても育つわけだけど、それでも毎日毎日なにかしら手入れして育てる。でも、結局は子どもがどうなるかなんてわかるわけないんです」。これは、私もそう感じていた。

 2つめ。冒頭にも書いたように、対談は15年も前に行われたもの。それなのに「古さ」をあまり感じない。当時人気のあった政治家の話題などは、さすがに月日を感じるが、日本の自然や「原風景」の喪失や、人の考え方の変化を嘆く様子は、今、この二人が対談しても同じことを話されるのではないかと思う。私たちの社会は、良くもならない代わりにひどく悪くもなっていないのかも、と思った。15年は長いようで短い。

 ちょっと面白かったエピソード。「親から「うちの子どもはトトロが大好きで、もう100回ぐらい見てます」なんて手紙が来ると、そのたびにこれはヤバイなあと、心底思うんですね。(中略)いっそビデオの箱に書きたいですね、「見るのは年に一回にしてください」って(笑)。」

 最後に。冒頭に宮崎駿さんのカラーイラストが多数収録されている。それは、宮崎さんの理想の保育園や住宅や広場とそれがある町を描いたもの。理想を「絵」で表現できるって素晴らしい。

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ドミトリーともきんす

書影

著 者:高野文子
出版社:中央公論新社
出版日:2014年9月25日 初版発行 10月30日 5版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 昨年の秋ぐらいから、全然違う方面の知り合いが何人か「これ面白いよ」と勧めてきた。その間に新聞や雑誌の書評欄で次々に取り上げられ、「本の雑誌」の2014年度ベスト10の特集に載り...と、ちょっとした「話題の本」になっている。

 著者の高野文子さんは漫画家で、本書も基本的にマンガ。装飾の少ない乾いた感じの絵がとても心地いい。

 主人公はとも子さん。娘のきん子ちゃんと2人で学生寮を営んでいる。とも子さんの「とも」と、きん子ちゃんの「きん」、それで「ドミトリーともきんす」。説明の必要はなかったかもしれないけれど。

 住んでいる学生さんがスゴイ。朝永振一郎くん、牧野富太郎くん、中谷宇吉郎くん、そして湯川秀樹くん。これも、説明の必要はないかもしれないけれど、昭和の前半に活躍した科学者たち、それも錚々たる顔ぶれだ。とも子さん親子と彼らの語らいが、4ページ半ほどの短いマンガとして、10編あまり収められている。

 そもそもはとも子さんの空想から始まっている。うんと昔の科学者の皆さん。偉くなってからだと、会っても緊張してしまって何も言えないと思うけれど、まだ若者でご近所に住んでいたらどうだろう?という設定。

 マンガの中ではまだ学生さんの科学者の皆さんが、その研究について熱っぽく語ってくれる。そして分かりやすく。そうきん子ちゃんにも分かるように。私にも分かるように。

 面白かった。そして驚いたことがある。科学者の皆さんは、その学術書だけでなく、一般向けの科学書も書いている、それだけでなく、随筆や日記なども出版されているのだ。あまりに功績の大きい皆さんだから、その功績に目が行ってしまうのは仕方ないけれど、人間的にもとても魅力的だったことが分かる。

 本書は、科学者の皆さんが記したブックガイドにもなっている。気になった本を読んでみようと思う。

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アルベルト・アインシュタイン -相対性理論を生み出した科学者

書影

著 者:筑摩書房編集部
出版社:筑摩書房
出版日:2014年8月25日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 先月に読んだ「スティーブ・ジョブズ -アップルをつくった天才」と同じレーベル、「ちくま評伝シリーズ<ポルトレ> 」つまり中高生に向けた伝記。

 アインシュタインの生涯については、いくらかの知識があった。子どものころは数学は抜群の成績だけれど他はダメ。興味のあること以外はヤル気がなく、集団生活に馴染めない。大学を卒業しても教授陣のウケが悪く、大学に残れず就職もできない。ようやく特許局の審査員としての仕事を得て、その仕事の傍らで相対性理論の最初の論文をまとめる...。

 本書を読んで「あぁそうだったのか」ということも、もちろんある。例えば、小学校に入る前にお父さんに方位磁石をもらって、その動きの背後に地球の原理や仕組みを想像して身震いした、というエピソード。目の前の出来事に驚いたり不思議に思うことは多いけれど、その背後を想像して身震いということはあまりないだろう。感性の成せる業だと思う。

 物理学者としての名声を得てから後のことにも、多くのページを割いている。第一次世界大戦の敗戦の混乱から第二次世界大戦、ファシズムへ向かうドイツ国内にあって、ユダヤ人であるアインシュタインは反戦平和主義を貫き、米国へ渡って後も発言を続けた。後年には原爆の開発を結果的に後押ししてしまった…。

 本書を読んだのには理由があった。「スティーブ・ジョブズ」を読んだときに、「伝記」にしては書き手の意識(興奮)を感じて、これは著者の思い入れの強さの表れなのかシリーズの特徴なのか、どちらなのだろう?と感じた。それがもう1冊読めば分かるだろうと思ったのだ。

 本書を読んだ結果、あれは「著者の思い入れの強さの表れ」だったのだろうと思った。

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