アンダルシア

書影

著 者:真保裕一
出版社:講談社
出版日:2011年6月9日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「アマルフィ」「天使の報酬」に続く、外交官・黒田康作シリーズの第3作。「アマルフィ」は2009年に本書は2011年にそれぞれ映画化された(注:映画と書籍では設定や展開が大きく違う)。

 主人公は黒田康作。「邦人保護担当特別領事」という肩書を持つ外交官。外国での日本人の保護の事案に、特別な任務を帯びて派遣される。今回はスペインのカナリア諸島で、コカイン密輸の疑いで逮捕された遠洋船の乗組員の元に派遣された。ただしその乗組員の権利の保護のためではなく、スペイン軍警察との司法取引に応じるよう説得するためだ。

 と紹介したけれど、この任務は冒頭20ページで完了。今回の物語とは直接の関係はない。しかし、読み終わると周到な下敷きになっていたことが分かる。

 本編の物語は、在バルセロナ総領事館にかかって来た一本の電話から始まる。マドリード在住の日本人女性からの電話で、買い物に行ったアンドラ公国で「パスポートと財布を落とした」という。

 黒田がこの女性の救助要請に応える。ミステリー作品なので本編の物語を詳しく紹介するのは控えるが、同時期にアンドラ公国で起きた殺人事件への、この女性の関与が疑われ、その対処に黒田が巻き込まれる。それは更なる大きな事件へとつながっていた。

 アンドラ公国というのは、スペインとフランスの国境に位置する小国。かつてはスペイン、フランスの両国を宗主国とし、現在も防衛や外交はフランスに頼っている。税金がかからず銀行は顧客の秘密主義を通して来たため、「租税回避地」として後ろ暗いお金も流れ込んでいそうだ。

 そうした地政学的な背景をうまく物語に組み込み、なかなか複雑なストーリーになっている。スペインの警察官に「日本のMI6」と言われるシーンがあるが、黒田の活躍はジェームズ・ボンドばりだ。それが痛快と感じるか、「あり得ない」と白けるか。私は前者だった。

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いつまでもショパン

書影

著 者:中山七里
出版社:宝島社
出版日:2013年1月24日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「さよならドビュッシー」「おやすみラフマニノフ」に続く、岬洋介シリーズの第3作(スピンオフの「さよならドビュッシー前奏曲」を入れれば第4作)

 名古屋を舞台とした前2作と打って変わって、今回はポーランドの首都ワルシャワでの物語。5年に1度開催される国際ピアノコンクールの「ショパン・コンクール」。その一次予選のさ中に殺人事件が起きた。それも手の指10本全部を切り取られるという猟奇的な犯行だった。

 主人公は、ヤン・ステファンス。18歳。このコンクールの優勝候補。ポーランドで4代続いて音楽家を輩出する名家のホープ。それだけでなくポーランドの人々にとってショパンは特別な存在で、ヤンはポーランドの期待の星で、彼の優勝は人々の希望でもあった。

 このコンクールに、日本人が2人出場している。1人は榊場隆平。18歳。生まれながらの盲目ながら、耳から聞いた音楽を完璧に再現する天賦の才の持ち主。もう1人は岬洋介。27歳。そう、このシリーズの主役。類まれなピアノの表現力と共に、鋭い洞察力を持ち、これまでにも様々な事件を解決に導いた。

 これまでのシリーズの中で最高の作品だと思う。周辺の大国に蹂躙されたポーランドが置かれた歴史的な意味づけ、現代社会が抱えるテロとの戦い、といった大きな物語を取り込んだ骨太なストーリー。期待を背負った若者の屈託や親子の気持ちのすれ違い、そして飛躍。読み応え十分だ。

 それから、忘れてはならないのが、音楽小説としての魅力。音楽の才能も知識もない私にも、文章から音楽が聞こえてくる。前2作もそうなのだけれど、これは本当に不思議だ。

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スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実

書影

著 者:ルーク・ハーディング 訳:三木俊哉
出版社:日経BP社
出版日:2014年5月26日 第1版第2刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 R+(レビュープラス)様にて献本いただきました。感謝。

 2013年6月の、エドワード・スノーデン氏による、アメリカ国家安全保障局(NSA)が、世界中の個人情報を収集していたことを暴露・告発した事件のドキュメンタリー。

 スノーデン氏は、元CIAおよびNSAの局員。NSAではシステム管理者として機密情報にアクセスすることができた。そこで、NSAがインターネットの通信の盗聴やサーバーへの侵入によって、世界中の人々の通話、Eメール、検索履歴などを収集していることを知る。

 米国民に対する広範なこのような情報の収集は、合衆国憲法(修正第四条)に違反する。そう考えたスノーデン氏は、国家によるこの重大な裏切りを告発するために、機密文書を公開した。本書は、この告発に至るスノーデン氏の経歴から、告発後の数か月を、多方面からの取材によって克明に追う。

 「事実は小説より奇なり」(「推薦のことば」を寄せた元外務省主任分析官の佐藤優さんもそう書いていた)。苔むしたこんな言葉が読み終わって浮かんだ。1年前のことゆえ記憶に新しい方もいるだろうが、スノーデン氏は、香港に身を潜めながら情報を公開し、追手をかわすために中南米へ向かう。その途中のモスクワの空港のトランジットエリアで足止めされるが、39日後にロシアへの亡命が認められた。サスペンス小説さながらの緊迫感だ。

 著者は英国の新聞社「ガーディアン」の海外特派員。スノーデン氏が持つ機密情報を最初に公開したのが、ガーディアン米国なので、本書を記すための好位置にいたことは確かだ。しかし、わずか1年前の(見方によっては現在進行形の)事件のため、関係者が容易にすべてを話してくれたとは思えない。これだけ克明に再現できたのは驚異的。本書は現代史の貴重な記録だと思う。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ。 

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(さらに…)

小夜しぐれ みをつくし料理帖

書影

著 者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2011年3月18日 第1刷発行 2014年5月18日 第16刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第5作。「浅蜊の御神酒蒸し」「菜の花尽くし」「寿ぎ膳」「ひとくち宝珠」の4編を収録した連作短編。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 今回は、「つる家」の主人の種市が抱える過去や、「天満一兆庵」の若旦那の消息などが分かり、澪の友人の美緒が人生に新たな一歩を踏み出す。また、料理勝負のようなイベントや、初めて澪が登場しない作品、といった趣向が楽しめる。これまでのシリーズの中でも出色の作品だと思う。

 特に、種市の過去を題材にした「浅蜊の御神酒蒸し」は、緊迫感と劇的な展開で読みごたえがあり、5作目にして迎えた大きなヤマを感じた。また、澪の想い人の小松原を主人公にした「ひとくち宝珠」は、面白い試みで物語の広がりを予感させた。

 シリーズは10作で完結の予定らしい。すると本書が前半の掉尾ということになるのだろう。この盛り上がりはそれにふさわしい。

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だから日本はズレている

書影

著 者:古市憲寿
出版社:新潮社
出版日:2014年4月20日 発行 5月30日 6刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の名前を世間に知らしめたのは、著作「絶望の国の幸福な若者たち」。不安定な労働環境、破綻寸前の年金制度などで、日本の将来は不透明、今の若者は不遇だと言われる中で、当の「若者」である20代の70.5%が、現在の生活に「満足」していると調査に答えている(*)、というところから書き起こしたものだった。

 当時著者が26歳という若さであったことと、既存の価値観や共通認識を覆す視点と、ユーモアと皮肉の効いた語り口で、大きな評判を呼んだ。私も読んだのだけれど、なかなか的を射た意見だった。本書は、その流れで書かれたいくつかの評論をまとめたものだ。

 「リーダー」なんていらない、憲法で国の姿は変わらない、やっぱり「学歴」は大切だ、「若者」に社会は変えられない..。リーダーシップ論が華やかで、憲法論議では「この国の形」を考えると言われ、「実力主義」が喧伝され、「若者よ、今こそ怒れ」なんて言われる現代の「逆張り」をする。

 面白く読んだ。多くの人が読むといいと思う。行き過ぎて思い込んでいたことを、クールダウンしてくれるだろう。でも気になったこともある。「逆張り」に囚われてしまっている気がする。頭のいい著者のことだから、それを承知で「望まれる役割」として敢えてそれを演じているのだろう。
 しかし、中には空疎な言いがかりめいたものや、「それを言っちゃダメなんだよ」ということもあって、「難癖キャラ」に成り下がってしまう危険も感じた。そうなってはもったいない。

 最後に。これも著者は承知のようだけれど、29歳で「若者」の代表のように語るのはつらいだろう。でも、もう10年ぐらいは、偉いおじさんたちが著者に「若者の意見」を求めるんだろうなと想像する。

(*)2010年の内閣府の調査。本書によると、2013年の調査ではこの数字は78.4%に上昇している。

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アリスの夜

書影

著 者:三上 洸
出版社:光文社
出版日:2003年3月25日 初版1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2003年の第6回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作品。

 主人公は水原真彦。34歳。会社を辞めて始めたジャズバーの経営に行き詰り、資金繰りのために街金に手を出した。その後に転落を繰り返し、危ないヤツらに取り込まれ、今は店をシャブの取引所として提供している。

 しかし転落はここで止まらず、さらに何度か転がり落ちて、ようやく止まったかに見えた仕事が、怪しい芸能プロダクションの運転手。その裏の仕事(表の仕事なんてほとんどないんだけれど)で、真彦は9歳の美少女のアリスに出会う。本書の後半は真彦とアリスの逃避行を描く。

 本書は、ミステリーとは言っても「謎」はほとんどない。真彦を中心とした騒動が目まぐるしく展開していく。危機が次々と真彦を襲いそれをなんとか切り抜ける、を繰り返すジェットコースター・サスペンスだ。

 この手の物語にありがちな「都合のいい展開」はもちろんあるけれど、リアリティを求めても仕方ない。話の運びのテンポがいいので、退屈することなくドンドンと読み進めることができた。

 最後に。冒頭のシーンに結構なインパクトがある。もっと正直に言ってしまえば嫌悪感を感じる。設定がある種の禁忌に触れていて、私としてはもう少しおだやかな設定でお願いしたいと思った。ただ、それでも新人賞が取れたのかどうかは分からないけれど。

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レビュー記事が800本になりました。

800_3

 先日の記事「全員で稼ぐ組織」で、このブログのレビュー記事が800本になりました。3年前に「レビュー記事が500本になりました。」という記事を書いた後、600本、700本は気が付かないうちに過ぎていました。

 今回もあまり意識していなかったのですが、昨日なぜか集計しようと思い立って数えてみたら、ぴったり800本でした。何かが知らせてくれたのだと思います。天啓かもしれません。

 区切りがいいので、分析してみました。評価は☆5が18、☆4は324、☆3が417、☆2が36、☆1は2。半分以上が☆3ですね。評価を付けるのはけっこう難しくて、無難なところで☆3つにしてしまうことが多いのは事実です。その点、☆4と特に☆5は「これはいい!」と思ったもので、自信をもっておススメできます。

 カテゴリーは小説が222、ファンタジーが171、ミステリーが142、経済・実用が88、その他が84、ノンフィクションが69、エッセイが20、雑誌が4です。基本的に「物語」が好きなんですね。小説には純文学からエンタメ系まで幅広く入っています。その他には自己啓発や評論などが含まれています。

 作家さんはダイアナ・ウィン・ジョーンズさん35、伊坂幸太郎さん29、有川浩さん27、上橋菜穂子さん20、三浦しをんさん17、東野圭吾さん16、塩野七生さん15..です。上位は、コンプリート(全作品読破)を目指した人です。集計によると著者は360組いて、なんと7割の253組が1作品だけでした。乱読が極まった感じですね。

 こうして本が読めるのは、暮らしに大きな支障がないからです。そのことは本当にありがたく思っています。その幸せを感じつつ、これからもレビュー記事を積み重ねていきたいと思います。

温室デイズ

書影

著 者:瀬尾まいこ
出版社:角川書店
出版日:2006年7月31日 初版発行 2006年8月30日 再版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 以前「戸村飯店青春100連発」を読んで、タイトル通りに「青春」がたっぷり詰まったとても面白い物語だった。それで著者のことはずっと気になっていたので、しばらく時間が経ってしまったけれどまた「青春」を期待して別の作品も読んでみようと思った。

 「戸村飯店~」の主人公は高校生の兄弟だったけれど、本書の主人公は中学生女子の2人。中学3年生の中森みちると前川優子。2人は小学生の時もクラスメイトだった。ただし「友達」とは言えない関係だったけれど。

 みちるたちの学校は、小学校も中学校も少し「崩れた」学校だった。「不良」と呼ばれる生徒が悪さをし、授業中に立ち歩く者もいて、何かのきっかけで陰湿な「いじめ」が起きる。小学校の時には優子が、中学校ではみちるがいじめの対象になってしまう。

 まぁそんなわけで「青春」という言葉に含まれる「爽やかさ」はあまりなく、代わりに「痛々しさ」が伝わってくる。全体的にピリピリとした緊張感が漂う。残念ながらこれも「青春」の別の側面かもしれない。

 ただし、この崩れた学校での生活も、著者の手にかかって少し明るさを感じられるようになる。みちるも優子も、相当に追いつめられるのだけれど、それぞれに踏みとどまって、反転することができる。

 それにはそれぞれに、ちょっとした拠り所やきっかけがあったことが幸いした。もちろん「いじめに負けずに頑張ったから、回りの人も反省してすべてが解決」なんてお気楽な話にはならない。それでもささやかな達成感が「爽やかさ」を残してくれる。

 「戸村飯店~」と同じように、主人公が章ごとに入れ替わる。みちると優子の互いへの思いが、ピッタリと合っていたり少しズレていたりするのがミソ。「有能な使えるパシリ」の斉藤くんにも注目。

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全員で稼ぐ組織

書影

著 者:森田直行
出版社:日経BP社
出版日:2014年6月2日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 R+(レビュープラス)様にて献本いただきました。感謝。

 本書は京セラの創業者である稲森和夫さんが、企業経営の実体験から編み出した経営手法である「アメーバ経営」を解説したもの。2010年に経営破綻した日本航空(JAL)の再生に稲森さんが乗り込んで、2年余りで東証への再上場を果たした。その時に適用した手法がこの「アメーバ経営」だ。

 「アメーバ経営」最大の特徴は、会社組織を「アメーバ」と呼ばれる小集団組織に分けること。それぞれの「アメーバ」のリーダーが経営者のように小集団組織の経営を行う。リーダーが的確な判断を行えるように、「アメーバ」ごとの採算を表す経営数値をリアルタイムで提供するシステムも整備する。

 「アメーバ」のリーダーが、メンバーとともに様々な努力や工夫といった「改善」を行う。その「改善」の結果はすぐに経営数値になって表れる。そうなると人間の習性として、その数値を少しでも良くする方法を考え始める。この「人間の習性」が「アメーバ経営」の駆動力だと言える。

 「アメーバ」の分け方、経営数値の作り方、といったことの詳細が、JALをはじめとする具体的な事例とともに解説されている。すぐにでも自社で適用できそうだ。

 しかし、この本では分からないこともある。それは、社員の意識改革を如何にして行うか、ということ。最初の「改善」という一回しの「駆動力」は、意識改革によって得るだと思う。もっともこれは文字にして人に伝えられることではないだろう。

 経営手法の解説本はいろいろあるけれど、本書は優れた本だと思う。組織を経営する立場の人は読んでみたらどうだろう?書店で目にしたら、巻末の付録「早わかりアメーバ経営」だけでも目を通して欲しい。 

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55歳からのハローライフ

書影

著 者:村上龍
出版社:幻冬舎
出版日:2014年4月10日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の5月の指定図書。

 今夜から始まるNHKの同名のテレビドラマの原作。「結婚相談所」「空を飛ぶ夢をもう一度」「キャンピングカー」「ペットロス」「トラベルヘルパー」の5編を収録。元は新聞に連載されたものらしい。

 本のタイトルにあるように、5編の物語の主人公の共通点は、50代半ばを過ぎた中高年であること。必ずしも55歳というわけではなくて、60歳を過ぎた者もいる。大きなくくりで言えば60歳という「定年」に前後する世代と言える。

 簡単に5編の紹介を。主人公が女性の話は2つ。「結婚相談所」は、30年近く共に暮らした夫と離婚した女性の「婚活」の話。ちょっと恥ずかしくなる。「ペットロス」は、定年後の夫と暮らす女性が愛犬を亡くす話。哀しいけれど、良い着地点が見つけられた。

 男性が主人公の話は3つ。「空を飛ぶ夢をもう一度」は、交通誘導員の仕事をする男性と中学の同級生の邂逅。息が詰まりそうな緊迫感。「キャンピングカー」は、早期退職した男性がキャンピングカーでの自由な旅の暮らしを妻に提案する。しっかりしてほしい。「トラベルヘルパー」は、63歳のトラックドライバーの老いらくの恋。ちょっとズレてる。

 基本的に男がカッコ悪い。離婚した妻に未練がましいメールを送ってくる。妻の気持ちを考えないで勝手に決めてしまう。妻が大事にしているものに気が付かない。ストーカー一歩手前の求愛...一途で無邪気で照れ屋で純粋。そういう言葉が中高年になっても適用されるならいいのだけれど。

 私は今50歳。10歳ほど主人公たちより年下だ。そのためか「いい歳して何やってるんだか」という気がした。ただ50歳になって思うのは、自分が若い頃に思っていた50歳のイメージと全然違っている、ということ。何かこう、全然枯れてこないのだ。そう思えば、10歳上の主人公たちを「いい歳して」なんて言ってることが滑稽に思えてきた。

 最後に。「ハローライフ」は、きっと著者の人気作「13歳のハローワーク」に着想を得て、宣伝効果を狙ったものだろう。あざといとも言えるけれど、実は「人生(生活)に出会う」というタイトルは、5編の物語をうまく言い表してもいる。5編の物語の主人公には、もうひとつ共通点があって、それは「人生に改めて向き合った」ことだ。

 NHK土曜ドラマ「55歳からのハローライフ」公式サイト

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