SOSの猿

著 者:伊坂幸太郎
出版社:中央公論新社
出版日:2009年11月25日 初版発行 
評 価:☆☆☆(説明)

 「伏線を回収して最後に全部かっちり収まる、バランスの良いもの」。これは、本書の出版に当たって出版社の特設ホームページに掲載されたインタービューで語った、著者自身が持っている自らの作品のイメージだ。付け加えるとすれば「気の利いた会話や、突き抜けた愛すべきキャラクター」などがあげられるが、私もその通りだと思うし、そのような作品を読みたいと思う。
 しかし著者は、同じインタビューの中で「どこか破綻しているもの、ちゃんと解決しない部分があったり、不可解な部分があるほうが好きなんですよ」と言い、「あるキング」からは意図的に変えて、バランスの崩し方を手探りしていたらしい。そして本書は「最近のやりたいことが一番よくできた「理想型」」という評価をしている。

 その本書について。物語は主人公の遠藤が、知り合いの女性からひきこもり中の息子の眞人のことで、相談というかお願いを受けるところから始まる。女性は遠藤のことを「訪問カウンセラー」だと聞いてきたようだが、彼はイタリアで「悪魔祓い(エクソシスト)」のトレーニングを受け、帰国後も依頼に応じてそうしたことをやっているのだった。
 「エクソシスト」がどの程度本当に「悪魔」を祓う仕事なのかはわからないが、「悪魔が憑いた」としか言いようのない状況を見せる人々を救う仕事をしている人は実際にいるのだそうだ。遠藤はそうしたエクソシストの一人に付いてアシスタントをしていた。
 精神的な疾患ならば、それを治すのは専門医の仕事であって、遠藤の分野ではない。彼もそう思いながらも、断ることができずに女性の家を訪ねる。そして..めまいに似た感覚や遠藤が見た眞人の様子は、これが「遠藤の分野」のことであることを示していた..。
 この遠藤の視点の「私の話」と、「猿の話」というシステム開発の品質管理を仕事とする五十嵐の話が、交互に語られる。そして株の誤発注や、監禁虐待事件、夜のコンビニの駐車場で合唱するコーラス隊などがストーリーに絡む。この辺りで「気の利いた会話や~」は健在で、これまでと変わりなく味わえる。

 話は戻るが、著者が「あるキング」からは意図的に変えようとしたと聞けば、大方の伊坂ファンは「あぁやっぱり」と思うだろう。そのぐらい「あるキング」はそれまでの作品と違っていた。確かにバランスが崩れていた。本書はそれほどでもないが少し据わりが悪い。
 まぁ著者の意図だから当然だし、私も嫌いではないのでお付き合いさせていただく。しかし、どうか程良いバランスの崩し方に留まって欲しい。そして「気の利いた会話や~」まで失うようなことのないようにして欲しい。

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SOSの猿”についてのコメント(1)

  1. デコ親父はいつも減量中

    SOSの猿<伊坂幸太郎>-本:2010-34-

    SOSの猿クチコミを見る
    # 出版社: 中央公論新社 (2009/11/26)
    # ISBN-10: 4120040801
    評価:77点
    内容(「BOOK」データベースより)
    ひきこもり青年の「悪魔祓い」を頼まれた男と、一瞬にして三〇〇億円の損失を出した株誤発注事故の原因を調査する男。そして、斉天大聖・……

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