夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです

著 者:村上春樹
出版社:文藝春秋
出版日:2010年9月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「めったにマスメディアに登場しない」というイメージが強い著者の初めてのインタビュー集。1997年12月から2009年の春までの11年あまりの間に行われた18本のインタビューが収録されている。時期を作品で言えば「アンダーグラウンド」刊行直後から、「1Q84 BOOK1,2」を書き終えた(まだ刊行されていない)ころまで。長編なら「海辺のカフカ」、中編では「スプートニクの恋人」「アフターダーク」、連作短編「神の子どもたちはみな踊る」「東京奇譚集」が刊行されていて、インタビューではそれらを始め、デビュー作以降の沢山の作品に触れられている。

 著者の作品に向かう態度、作品の書き方までが語られている。例えば「スプートニクの恋人」は自分が培ってきた文体を徹底的に検証しようとして書いた、とか、短編集を書くときには、なるべく意味のないポイントを20ぐらい用意して、1編にそのうちの3つを使って書く、とか...。
 最も興味深かったのは、人間の存在を2階建ての家になぞらえた例え。1階はみんなで集まってごはんを食べたり話したりするところ。2階は1人になって本を読んだり音楽を聴いたりするところ。つまり、1階は社会と接するパブリックな部分、2階は自分だけのプライベートな部分。上手い例えではあるが、どこか平凡でもある。しかし、著者の奥深さはこの先にある。
 この家には地下室がある。日常的には使わないけれど、いろいろなものが置いてある特別な場所。普段は自分も意識しない、心の底に沈めた想いのようなものだろう。そして、さらに奥深いことに、そこには特殊な扉があって、また別の部屋へ続いているというのだ。じらすようで申し訳ないが、これは大事なことだと思うので、この部屋のことはここでは説明しない。

 冒頭に「めったにマスメディアに登場しない」と書いたが、それは正確ではない。何しろ、520ページにもなるこんな本ができるぐらいインタビューに応えているのだから。ただし、本書に収録された18本中12本は海外のメディアに向けたものだ。
 だから「めったに日本のマスメディアに登場しない」と言えば正確かというと、実はそうでもない。本人も「好んでやるほうではない」とおっしゃってはいるが、ちょっと検索すると分かるが、雑誌や新聞のインタビューが年に何本かある。
 ただ、テレビやラジオには出ない。その理由が、本書を読んで分かった気がする。こんな論評は生意気だけれど、著者は言葉をとても吟味して使う。テレビやラジオではそこまでできないかもしれないし、できたとしても聞いた方が言葉の選択まで正確に記憶できるわけではない。こうして、その雑誌や新聞の読者以外の目には触れないため「登場しない」ことになってしまっている。本書はある編集者が熱心に進めた企画だそうだけれど、彼女はこの状況に気が付いていたのだろうと思う。

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