KAGEROU

著 者:齋藤智裕
出版社:ポプラ社
出版日:2010年12月15日 第1刷発行 12月24日第6刷
評 価:☆☆☆(説明)

 第五回ポプラ社小説大賞受賞作品。昨年の年末にものすごく話題になった作品だから、読んだか否かは別にして、知っている方はたくさんいるだろう。俳優の水嶋ヒロさんが、本名で応募して見事に大賞を受賞した作品。その経過が(ネガティブに)注目されて、Amazonのレビューがお祭り状態になった。

 主人公のヤスオは40歳。廃墟と化した古いデパートの屋上から、飛び降りて自殺しようとしていた。リストラ勧告に対して、辞表を叩きつけてこっちから辞めてやったまでは良かったが、その後は仕事が見つからず、借金をくり返し。その果ての自殺。
 そこに真っ黒なスーツを着た男が現れる。こんな状況で現れる真っ黒なスーツの謎の男と言えば、「笑ゥせぇるすまん」の喪黒福造かと思ってしまうが、もちろん違う。男は京谷貴志と書かれた名刺を差し出す。デパートの関係者ではない。しかし、ここは廃墟ビルの屋上、偶然通りかかったのでもない。京谷はヤスオにある契約を持ちかける。ますます喪黒福造かと思ってしまうが、もちろん違う。

 このあと、ヤスオは自分の命や自分の価値について考える、色々な出来事に出会うことになる。ヤスオが発するダジャレのせいか、命をめぐる物語なのに、ノリが終始一貫して軽い。「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」とは、伊坂幸太郎さんの「重力ピエロ」の中のセリフだが、著者がこういったことを意図したのなら、相当程度に成功している。しかし平板な感じは否めない。

 この後は、この記事をちょっと補足しています。よろしければ、どうぞ

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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 お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、先日読んだ「削除ボーイズ0326」が、第一回ポプラ社小説大賞受賞作品、本書がその第五回の受賞作品であるのは、偶然ではありません。読み比べてみようと思ったのです。

 それで、読み比べた結果ですが、「削除ボーイズ0326」の方がよく出来ている、と認めないわけにはいかなくなりました。「削除ボーイズ」も、どこかで聞いたような話だし、荒いところもありますが、ストーリーは良く練られていました。

 念のため言いますが、私は一部にある「出来レース」の指摘に与するのではありません。その指摘を耳にして、自分で判断しようとしたまでです。過去の受賞作と遜色のない作品であれば、私自身は「出来レース」の疑いを晴らせる、と思ったからです。結果は芳しくありませんでしたが。

4つのコメントが “KAGEROU”にありました

  1. じゅんちゃん

    簡潔で要領の良いレポートに感服しています。カンボジアに住み、晴読雨読の毎日に本だけが頼りですが、入手には慎重の上に慎重を重ねています。だからあなたの書評が大変頼りになります。どうぞよろしく。

  2. YO-SHI

    じゅんちゃんさん、コメントありがとうございます。

    記事をお褒めいただいて、とても嬉しいです。
    「晴読雨読」ですか、うらやましいです。
    もしかすると、もうリタイアされているんでしょうか?

    私は、将来は小さな畑でも借りての「晴耕雨読」を
    目標にしています。

  3. 松田朋恵

    読みましたか、「KAGEROU」。実はわたしはまだです。近々、ブックオフに読み終わって溜まりに溜まった文庫本を売りに行く予定なので、
    その時に安く出ていたら買って読んでみようかな・・・。が、この書評を読む前に既にわたしも期待感はかなり薄いです・・・。
    発売翌日に、電車で隣に座っていた女性がこの本を読んでいました。覗いたわけではありませんが、紙のカバーから表紙が透けていたので
    わかったのです。好奇心が頭をもたげ、ちらっと横目で内容に目を走らせてしまいましたが(はしたなくてスミマセン)、その時に見えたのは
    「マイケル・ジャクソンのような黒い服装で」的な一行と、かなりスカスカな行間でした。

  4. YO-SHI

    松田さん、コメントありがとうございます。

    薄い、スカスカ、というのは、発売直後から聞いていました。
    「立ち読みで〇〇分で読めた」なんていう話もありました。

    まぁページ数、文字数が少なくても、早く読めても、
    それはそれで構わないんですけどね。
    (実際、読んでみてそれが何か不都合だったかというと、
    そんなことはありませんでした。)

    ネガティブな記事とコメントになってますが、ちょっと
    面白いところもあるし、あまり色々考えないで、気楽に読むには
    いいじゃないかと思います。

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