ユリゴコロ

著 者:沼田まほかる
出版社:角川書店
出版日:2011年3月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。私にとっては著者の初めての作品。

 主人公は亮介。20代半ば。犬のためのドッグランを備える会員制の喫茶店を経営している。父母と弟の4人家族で、将来を共に考える女性にも恵まれていた。ところがわずか半年足らずの間に、彼女の失踪、父親の末期癌の診断、母親の死に相次いで見舞われる。物語はそのショックから、幾分立ち直った夏の日から始まる。

 父親の癌はともかく、彼女の失踪も母親の死も謎が残るものだった。彼女はなんの前触れもなく居なくなってしまったし、母親は赤信号でふらりと道路に踏み出し、トラックにはねられている。ミステリーに謎は不可欠なのだけれど、この謎は本書では背景に過ぎない。読者にはもっと鮮烈な謎が突きつけられる。

 それは、亮介が実家の押入れの中で見つけた段ボール箱の中にあった。ひと束の黒髪と、「ユリゴコロ」とタイトルが付けられた4冊のノート。「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とちがうのでしょうか」で始まるそのノートには、信じがたい告白が書いてあった。このノートに書かれていることは真実なのか、これを書いたのは誰なのか?

 乙一さんの「GOTH」を読んだ時の感覚が蘇った。「GOTH」のようなグロテスクな描写は少ない代わりに、心理的な圧迫感は大きい。描かれているのは、人の死や「人を殺すこと」に惹きつけられてしまう、冥く乾いた欲求。それに対して感じるのは(道徳的な)嫌悪感。ただ、その奥でチラチラと(不道徳な)興奮が揺らめく。その揺らめきを肯定するか否かで、本書の評価は分かれると思う。

 私としてはどうしても肯定できない。にも関わらず、読み終わった後味が妙にさっぱりしていたのは「GOTH」と同じで、不思議だ。

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ユリゴコロ”についてのコメント(1)

  1. 笑う社会人の生活

    ノートに語られた、

    小説「ユリゴコロ」を読みました。
    著者は 沼田 まほかる
    けっこうな話題になった本作
    これで 自分の沼田さんの名前を知りましたし!
    さて 内容は・・・
    う〜ん ぞくぞくとするような
    ホラーミステリーですね
    以前 読んだ作品も恐ろしい感はありましたが・・・
    やはり……

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