挑む力 世界一を獲った富士通の流儀

著 者:片瀬京子、田島篤
出版社:日経BP社
出版日:2012年7月9日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 R+(レビュープラス)様にて献本いただきました。感謝。

 「挑み」、そして「成し遂げる」には、どうすればいいのだろうか?その答えを、困難なプロジェクトに挑んで成し遂げた人々から見出したい。「はじめに」で、著者はその思いをこう綴っている。これを読んで、2000年代前半のNHKのあの番組を思った人は多いだろう。そう「プロジェクトX」だ。本書は、テレビ番組のような過剰気味な演出はなく、困難を克服したリーダーたちの言葉をそのまま伝えようとしている。

 本書で、困難なプロジェクトに挑んで成し遂げているのは、富士通の社員の皆さん。富士通を取材対象にした理由の1つが、スーパーコンピューター「京」のプロジェクトの成功。「2位じゃダメなんでしょうか?」が耳目を集めた、あのプロジェクトだ。(このプロジェクトの成功が、本書の企画の発端なんじゃないかと思うが、邪推だろうか?)

 他には、東京証券取引所の株式売買システム、すばる望遠鏡の観測データ解析システム、東日本大震災の復興支援、らくらくホンの開発、農業クラウド、次世代電子カルテ、手のひら静脈認証の、「京」と合せて8つのプロジェクトが紹介されている。どのプロジェクトも富士通が主要部分を手がけたものだ。

 実は、私は富士通のライバル会社に、15年ほど前までの10年間勤めていた。そのため、自分の経験に照らしながら読むことになった。読み終わって「富士通がこんな会社なのだったら、敵わないな」と思った。経営の姿勢やスピード感が、以前の勤め先のあの会社とは全く違う。反面「こんな会社だったか?」とも思った。同じ業界にいたし、知り合いもいたので、知りうる情報は少なくなかった。今も仕事で付き合いがある。私が知っている富士通とも少し違った。

 「そうなんだよな」と思ったことが1つ。登場した社員の多くが異動で、そのプロジェクトに関わるようになる。当初は「なんで私が..」というネガティブな気持ちを持つ。しかし、プロジェクトの成功はその人を育てる。本人もやって良かったと思う(成功しないプロジェクトも何倍もあるけれど)。会社の「異動」というシステムは、人を育てるための仕組みという側面もあるのだ。

 気になったことが1つ。特に終盤に多いのだけれど、DNAという言葉が盛んに使われていることだ。現場主義もDNA、チャレンジ精神もDNA、「夢をかたちに」もDNA、「がむしゃらな人をみんなが助けてくれる」のもDNA(まだあるが、この辺でやめておく)。

 確かに社風というものはあると思う。自分が属するコミュニティについて「らしい」と、特に良い意味で感じた時にはDNAという言葉を使いたくなることもある(「日本人のDNA」とか)。でもこれは使いすぎだ。第一せっかく伝えた現場のリーダーたちの言葉が生きない。彼らが頑張ったのは、「それが富士通のDNAだから」ではなくて、彼らがそうしようと自分で決めたのだから。

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