死神の浮力

著 者:伊坂幸太郎
出版社:文藝春秋
出版日:2013年7月30日 第1刷 3月5日 第3刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの書き下ろし(冒頭のみ「別冊文藝春秋」に掲載)の最新作。100万部突破のベストセラー「死神の精度」の続編。あの何とも憎めない死神の「千葉」の物語で、しかも長編。期待して読んだ。

 死神の千葉の仕事は、指定された人を1週間調査して、「死」を実行するかどうかを判断すること。短編集の前作「死神の精度」では、何人かの調査を担当したが、長編の本書で担当するのは1人だけ。それは小説家の山野辺遼、35歳。物語は、千葉が山野辺の調査をする1週間を、千葉と山野辺の視点を何度か入れ替えて描く。

 少々重苦しい設定なのだけれど、山野辺は1年前に小学生の娘を、亡くしている。しかも殺された。その殺人の有力な容疑者として逮捕された当時27歳の男、本城崇は、あろうことか裁判で「無罪」になってしまった。このブログで何度か書いているけれど、子どもが可哀想な目に合う話が私は苦手で、本書もちょっとつらかった

 山野辺とその妻は、司法が裁けなかった本城を、自分たちで制裁を加えようとするが、常に後手に回ってしまう。本城はずば抜けて頭がよい男で、「無罪」も用意周到な準備によって、計画的に得たものだ。彼にとってはこの事件は「ゲーム」にすぎない。本城はいわゆる「サイコパス」なのだ。

 上にも書いたけれど設定が重苦しく、展開にも心が塞がれる。そこを千葉の言動が救う。人間の常識とはズレているから、やりとりがチグハグになる。例えば山野辺が本城のことを「良心がない人間」と言えば、千葉が「クローンというやつか(注:両親がない)」と返す、といった具合。

 読んでいてちょっとした既視感があった。身内を殺された男の復讐という流れは「グラスホッパー」に似ているし、逃避行での信頼と善意は「ゴールデンスランバー」を、圧倒的な悪には「モダンタイムス」を思い出した。そういった意味では伊坂ファンには馴染のある物語だとも言える。

 気になったのは、主人公を「小説家」にしたこと。小説家を主人公に据える以上、作家本人の何かが投影されているのでは?と考えてしまうのだけれど...

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死神の浮力”についてのコメント(1)

  1. 笑う社会人の生活

    あの死神が再び、

    小説「死神の浮力」を読みました。
    著書は 伊坂 幸太郎
    またまた伊坂作品です
    バケーションに続いてですね
    今作はあの千葉さんが登場するシリーズでして
    「死神の精度」も良かったですけど
    今作は前作と違い、長編でして
    少女殺しで逮捕されたが証拠不十分で一審で無……

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