何のために働くのか 自分を創る生き方

著 者:寺島実郎
出版社:文藝春秋
出版日:2013年6月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 記事をよく参考にさせていただいている「人生を豊かにするビジネス読書ブログ」で紹介されているのを読んで、面白そうだと思った。著者が、テレビの報道番組で経済政治国際問題を、鋭い切り口で語られるのを見て、その考えを著書で読んでみたいとも思っていた。

 「はじめに」によると、本書は「就職という人生の転機において迷い悩む学生」「就職しても三年で三割が転職する若者」の表情をみつめてきた著者が、こうした若者たちに考えるヒントを提供する試みとして書かれたそうだ。つまり私のような、社会人生活が30年になろうとする者を対象としているわけではないらしい。

 だからと言って本書を放り出すのは早計に過ぎる。なぜなら本書は「働く意味」を切り口としながら、著者の現代認識が語られているからだ。グローバル化、アジアダイナミズム、IT革命、食と農業、TPPといったテーマが、テレビの報道番組より掘り下げて解説されている。さらに著者自身の半生も併せて語られることで、解説の背景を感じることができて説得力も増している。

 私はもう「何のために働くのか」疑問に悩んだりしなくなったが、著者が提示した「カセギ」と「ツトメ」という言葉は胸に落ちた。「カセギ」は経済的自立のためのお金を稼ぐこと、「ツトメ」は社会への参画とか貢献、つまり何らかの役割を果たすこと。働く目的はこの2つを満たすためだ。逆に言えば、どちらかが不足すれば別の方法で補わなければ、その人生は不安定なものになる。

 ところで、本来の対象である若者に向けてはどうか?私は、就活にあたって若者に課する負荷が過大すぎるように思った。「短期の業績を調べるのでなく、どういうビジネスモデルで収益を上げているのかに着目」と言われても難しい。さらに「環境の変化に対応できる未来挑戦型の企業を探す」「経営者の人間力を自分の肌身で感じ取る」なんて言われても戸惑うばかりだと思う。

 最後に、本書に関連して。知り合いに「お祈りメールが届く」という話を聞いた。宗教がらみではない。企業からの不採用通知のメールのことで、最後にご健闘(ご活躍)をお祈りします、と書かれているから、そう呼ばれるようになった。知り合いのお子さんに毎日のように届くそうだ。30年前の私の就職活動とは様子が随分違うようだ。

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