魔性の子

著 者:小野不由美
出版社:新潮社
出版日:1991年9月25日 発行 2002年11月30日 24刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「十二国記」シリーズの外伝。ただし本編の第1作「月の影 影の海」より前に発行されていて、発行当初は外伝であることも(本編がないのだから当然だけれど)、シリーズであることも明らかにされていなかった。「黄昏の岸 暁の天」の物語と表裏となる、私たちの世界の出来事を描いている。

 主人公は広瀬。私立の男子高校を3年前に卒業し、母校に教育実習生として戻って来た。広瀬が受け持った2年6組に、これと言って目立つわけではないのに、明らかに周囲の者とは違う、と感じる生徒がいた。彼の名前は高里。彼にはある噂がつきまとっていた。

 その噂は「高里は祟る」というもの。高里をいじめたりからかったりした者が、大けがを負ったり事故で命を落としたりしているというのだ。広瀬が学校に来て5日目にも、高里と関わった生徒2人が不可解な事故で怪我を負った。こうしたことは偶然なのか、それとも...

 「高里の祟り」は偶然ではありえないほど繰り返される。高里が直接手を下していないことは明らかでも、周囲の感情は高里を許せない。結果として悪意に包囲され、その報復は徐々にエスカレートし、それが更なる悪意を呼ぶ。

 「黄昏の岸 暁の天」の読者には、「高里の祟り」の正体が分かる。十二国の世界から見た視点で、本書のの出来事の一端が描かれていたからだ。しかし当然ながら、本書の中の人々には分からない。そうした視点で描くと、こんなにもホラー色の強い物語になる。

 本書が発行された時点で「黄昏の岸 暁の天」の物語が、すでにほぼ完成した姿で存在していたことが感じられる。細部にわたって2つの物語の関連が、齟齬を起こさずに散りばめられているからだ。それなのに「外伝」である本書を最初に出したのは、「祟りの正体を知らない視点」を読者に提供するためだったのかもしれない。

 それに対して私は「正体を知って」読んだのだけれど、それはそれで良かった。私は「怖い話」が苦手なのだけれど、その苦手意識を感じずに最後まで読めたからだ。本書では、広瀬が抱える「自分がいるべき世界は別にある」という想いや、異端に対する人々の反応など、人間の内面に関わることもテーマとなっていて、そちらに興味を向ける余裕もできた。

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