手のひらの京

著 者:綿矢りさ
出版社:新潮社
出版日:2019年4月1日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

京都の街の佇まい、夏の暑さに汗ばむ感じや、冬の寒さに身が引き締まる感覚を感じた本。

主人公は京都で生まれ育った奥沢家の三姉妹。長女の綾香は31歳の図書館職員、次女の羽依は就職したばかりのモテ女子、三女の凜は味に関するタンパク質を研究する大学院生。子どもの頃から同じこの家で暮らしてきたけれど、性格は三人三様。でも、互いに悩みを相談し合う仲の良い姉妹。

物語は、三人が順番に主人公になって、エピソードを積み重ねる形で進む。その背景に、京都の四季、鴨川などの風景、祇園祭などの行事、著者が「京都の伝統芸能」という「いけず」、といった京都の風物がちょうどいい塩梅で織り込まれている。

「ちょうどいい塩梅」をもう少し詳しく。上にあげた「京都の紹介」は、あくまで背景で出しゃばらない。物語は三姉妹それぞれの、気付きと葛藤、自立や旅立ちが、しっかりと描かれている。それでも尚、目の前に京都の風景が立ち上がるし、「京都らしい」エピソードや姉妹の会話にニヤリとしたり、声を出して笑ったりしてしまう。

著者は京都の出身だったんだ、と今回(たぶん)初めて知った。「蹴りたい背中」で芥川賞を受賞したのが2004年で今から15年前。その時は確か早稲田の学生だったからか、東京の出身だと思っていた。考えてみれば早稲田を東京出身と結び付けるなんて、愚かしいことだけれど。

私は、学生時代の4年間を京都で暮らした。たった4年だけれど、特別な思い入れがある。本書(文庫本)の表紙が、鴨川(加茂川)の河原に座る三姉妹で、それだけで手に取ってしまったし、冒頭で凜が河川敷のベンチに腰かけて足を投げ出した先には、私も水の流れが見えた気がした。

最後に。秋のもみじの葉を表現する美しい言葉に沁みいった。「心にある形の何かに似ている。痛み、憧憬、羨望。1枚拾って手のひらにのせると、もみじの葉が皮膚に溶け込んでいきそう。凝縮した赤がきゅっと小さくて、目に染みる。」

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