ベーオウルフ サトクリフ・オリジナル7

著 者:ローズマリ・サトクリフ 訳:井辻朱美
出版社:原書房
出版日:2002年10月10日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

ファンタジー小説の源流を感じた本。

著者のローズマリ・サトクリフは、「第九軍団のワシ」などの児童向け歴史小説と、「アーサー王と円卓の騎士」「オデュッセウスの冒険」などの伝承や神話の再話を多く手掛けている。作家の上橋菜穂子さんが「影響を受けた作家」として筆頭に挙げられている。

本書は英国最古の叙事詩である「ベーオウルフ」を再話したもの。勇士ベーオウルフの英雄譚。デネ(デンマーク)の王の館を襲う怪物グレンデルの退治と、ヒイェラーク(スウェーデン南部)で人々を襲う竜の退治、この2つの物語から成る。グレンデル退治はベーオウルフの若かりし頃、竜退治は自らが王となり老いてからの出来事だ。

ストーリーは多少の脚色を除けば伝承のとおりであるようで、いたってシンプル。父が恩義を受けた異国の王を怪物が苦しめている。救援に駆けつけて、どのような勇士も歯が立たなかった、その怪物(とその母親)をベーオウルフは見事に退治する。竜退治の方はさらにシンプルで、竜を死闘の末に退治する。

驚いたのは、このシンプルなストーリーに、今日までのファンタジーで繰り返し語られた「竜」のモチーフがあること。洞窟の中で財宝を守っていること、口から火を吐いて焼き尽くすこと、翼を持っていて飛ぶこと、硬い鱗で覆われていること、下腹には鱗がなくそこが弱点であること。

「あとがき」によると、トールキンもこのベーオウルフを愛したとか。竜のモチーフは、トールキンの「ホビットの冒険」に登場する。「あとがき」の受け売りになってしまうが、「指輪物語」の王たち、例えばアラゴルンやセオデンには、ベーオウルフの面影がある。

ここまでは本書のというよりは「ベーオウルフの伝承」についての感想。最後に本書について。その場面の映像が立ち上がってくるような描写は、著者(と訳者)の力が合わさらないとできない。読み終わって一編の映画を観たような気持ちになった。やはり20世紀を代表するストーリーテラーだと思う。

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