流浪の月

著 者:凪良ゆう
出版社:東京創元社
出版日:2019年8月30日 初版 2020年2月7日 4版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。

 「分かりやすい説明」は疑った方がいい、という気持ちを新たにした本。

 主人公は家内更紗。物語の始まりの時には9歳、小学校四年生だった。更紗は公務員のお父さんと自由奔放なお母さんに育てられた。お母さんは昼でも夜でも飲みたいときにお酒を飲み、料理はうまいけれど気が向いたときにしかしない、たまにアイスクリームが夕食になる。ところが両親が順にいなくなり、今は伯母さんの家で暮らしている。

 伯母さんの家では、「夕食にアイスなんて駄目に決まってるでしょう」と言われる。一人息子の中学生も感じ悪い。小さな不快が積もって居心地が悪く、帰りたくない。そうして公園でひとり時間をつぶしていた時、更紗の友達たちが「ロリコン」と噂する、大学生の佐伯文に「うちにくる?」と声を掛けられ、ついて行ってしまう。これが、後に言う「家内更紗ちゃん誘拐事件」の発端。

 誘拐事件は2か月ほどで、更紗と文が外出した時に通行人に通報されて、文が逮捕、更紗が保護されて解決する。物語は、更紗が文と居た2か月をさっと描いた後、日本中を騒がせた「家内更紗ちゃん誘拐事件」の被害女児、としての20代になった更紗の暮らしを綴る。好奇の目で見られることもあるけれど、大体の人は優しい。更紗が望んだ優しさではないけれど...

 事件があると、私たちは説明を求める。事件はなぜ起きたのか?どんなことが起きたのか?説明が分かりやすければ分かりやすいほど受け入れられる。それが事実だと固く信じる。被害者についてさえ「被害者はこのようになる」という分かりやすい説明を信じている。事実はもっと複雑で分かりにくいはずなのに。本書は、世間の理解と事実とのギャップを浮き彫りにする。

 また、物語を読んで「事実」を知っている私でさえ、「更紗ちゃん、それはちょっとどうかな?ますいんじゃないの?」と何度が思う。分かりやすい説明と同時に、被害者には「被害者らしいふるまい」を求めている。本書が描く「分かってない世間」に、自分も含まれることに気づかされ、居心地が悪い想いがした。

 「事件の後」を描いたという意味では、角田光代さんの「八日目の蝉」を思い出した。

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