夏物語

著 者:川上未映子
出版社:文藝春秋
出版日:2019年7月10日 第1刷 2020年1月31日 第5刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品

 「生まれる」ことも、無かったことにできないんだなあ、と再認識した本。

 主人公は夏目夏子。芸名かペンネームのようだけど、これが本名。夏子の生い立ちはかなり厳しい。子どもの頃、両親と9歳上の姉と夏子の4人で、1階が居酒屋のビルに住んでいた。大阪の港町でよく道ばたで誰かがうずくまっているような街。働かず、朝も夜も関係なく寝て暮らす父親は、酒を飲むと母親を殴った。その父親も夏子が小学校にあがった頃に行方がわからなくなった。

 今は、夏子は30歳。東京で一人暮らしをしている。小説家志望で作品を書いてはいるものの、上京して10年経つけれど結果は出ていない。フルで働いて月に十数万円のバイト代で暮らしている。本書は2部構成で、第1部は、夏子のところに姉の巻子と11歳の姪の緑子が訪ねてくる。第2部は、それから8年後、「自分の子どもに会いたい」と思った夏子の日々を描く。

 好悪の境目のギリギリのところを進む描き方。私が読んだ中では「ヘヴン」もそうだったのだけれど、著者の特徴かもしれない。私は未読なのだけれど、第1部は芥川賞受賞作の「乳と卵」のリメイクで、女性の身体のこと性のことをテーマにしている。豊胸手術とか生理とか。ユーモアが包んでくれるので、読むのに抵抗を感じるほどではないのだけれど、後ろめたさを感じてしまう。

 第1部がリメイクなら、第2部が本書の本命だと言える。第1部を踏み台にして、かなり高く飛んだ感じがする。そのテーマは「生」「生まれること」。私たちにとって「取り返しのつかないもの」といえば、その一番「死」だけれど、「生」もそうだというのだ。たしかに、一度生まれて来たら元には戻れない。これはずっしりと重い。

「死」と「生」を対にして「同じ」と見る見方は、小川糸さんの「ライオンのおやつ」にもあった。あちらはドアの出入りに例えて、ずいぶん軽やかなものに感じたけれど。

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