一人称単数

著 者:村上春樹
出版社:文藝春秋
出版日:2020年7月20日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 村上作品は、長編もいいけど、やっぱり短編の方が好きだ、と思った本。

 村上春樹さんの短編集。収録作品は、書き下ろしの表題作「一人称単数」と、文芸誌「文學界」に掲載された「石のまくらに」「クリーム」「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」「ヤクルト・スワローズ詩集」「謝肉祭(Carnaval)」「品川猿の告白」の7編の合わせて8編。

 村上春樹さんらしい作品たち。「中心がいくつもあって外周をもたない円」を思い浮かべられるか?と、老人が問いかけていなくなってしまう。何かの比喩なのか?深い意味があるのか?作品の中に答えはなく、そうしたい読者が思いを巡らすことになる。大学生の男の子が恋人でもない女性と簡単にセックスしてしまうのも「らしい」。

 印象に残ったのは「ヤクルト・スワローズ詩集」と「品川猿の告白」の2編。

 「ヤクルト・スワローズ詩集」は、「「風の歌を聴け」という作品で、それは「群像」の新人賞をとり..」と、著者自身の本当の経歴が書き込まれている。その他にも正確な事実が多くて「自叙伝」として読める。でも、私の知る限りでは、この作品の大事な部分は「作り話」で、著者はこの「作り話」を、これまでにもほかの作品でも何度か使っている。

 「品川猿の告白」は、「東京奇譚集」収録の「品川猿」の続編(多少の食い違いを感じるけれど)。主人公は、群馬県の鄙びた温泉旅館で住み込みではたらく人語を話す猿と出会い、その身の上話を聞く。以前は品川区に住んでいて「好きになった女性の名前を盗む」という悪癖があった。ブルックナーとリヒアルト・シュトラウスの音楽が好きだという。なかなか興味深い猿。

 小説に結論を求める人にはおススメできないけれど、独特の雰囲気はありながら(つまり「らしい)読みやすい。村上作品に馴染みがない人にもいいと思う。それと同時に「村上主義者(著者が「ハルキスト」ではなくこう呼んでほしいとおっしゃっている)」が好きそうな本だ。例えばタイトルにある「一人称」という言葉一つにでも、思うところがあるはずだ。

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