滅びの前のシャングリラ

著 者:凪良ゆう
出版社:中央公論新社
出版日:2020年10月10日 初版 10月15日 再版
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 冒頭「クラスメイトを殺した」という文章で始まる、なかなかスリリングな本。

 本屋大賞ノミネート作品。

 「1ヶ月後に直径が推定10キロメートルの小惑星が地球に衝突する」という世界を描いた、一種のディストピア小説。主人公はバトンを渡すように章ごとに代っていく。最初の主人公は江那友樹、17歳。ぽっちゃり体型の高校生。スクールカーストの下位に位置して、上位のクラスメイトにいじめを受けている。冒頭の「クラスメイトを殺した」のは彼。

 江那くんは、いわゆる「陰キャ」なのだけれど、なかなか芯が強い。学校一の美少女である藤森さんとは小学生の時から同級生で、小学校5年生の時に大事な思い出がある。この時の約束を起点として、江那くんは藤森さんを守るナイトとなって、物語を引っ張っていく。章によって主人公は代るのだけれど、物語としては江那くんの純愛物語の様相を呈していく。

 私はこういう物語が大好きだ。その理由の一つは魅力的なキャラクターだ。江那くんのお母さんというのが「やばさ全開ドヤンキー」な青春を過ごした人で、藤森さんを守るために暴動が予想される東京に付いていくという江那くんに、包丁を渡して「やばくなっても素手でやりあうな。凶器を出せ」とアドバイスをする人だ。

 お母さんの昔の恋人は、飛び蹴りで江那くんの前に登場するし、美少女の藤森さんもしり上がりに個性的な性格を発揮するようになる。気の利いた会話もあるし、巧みな伏線もある。こういう表現は著者は嫌がると思うけれど、伊坂幸太郎さんの作品に似ている。☆5つ。

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