推し、燃ゆ

著 者:宇佐見りん
出版社:河出書房新社
出版日:2020年9月30日 初版 12月30日 4刷
評 価:☆☆☆(説明)

主人公のことを父親目線で見てしまってなんだか痛々しかった本。

2020年下半期の芥川賞受賞作。本屋大賞ノミネート作品。

主人公は山下あかり。高校生。あかりには「推し」がいる。男女混合のアイドルグループのメンバーの上野真幸。その「推し」がファンの女性を殴ったとかで、ネットやらワイドショーやらで炎上した。物語はこんな場面から始まって、あかりの子ども時代のことや高校での出来事、炎上事件のその後などが、あかりの一人称で語られる。

あかりは「みんなが難なくこなせる何気ない生活」がままならない。「推しを推すことが生活の中心で絶対」と思っている。これは比喩や誇張ではなくて、小さいころから漢字や九九など、他の人なら繰り返し書いたりすれば覚えられることが覚えられなかった。病院を受診してふたつほど診断名がついた。でも「推し」のことを綴るブログには長い文章も書ける。

ついでに言うと、一人称の語りなので、本書の明晰な文章もあかりが書いていることになるわけで、「漢字や九九を覚えられない」という人物像とのギャップを感じた。いや漢字や九九が覚えられなくても、あかりは言葉を紡ぎ出す図抜けた才能がある人なのかもしれない。

力を感じる光る文章が多くあった。芸術性を評価する芥川賞の受賞もうなづける。帯に使われた「推しは命にかかわるからね」は、物語の初めごろに登場する何気ない会話の一部なんだけれど、ハッとさせられたし、後になって振り返ると、実はけっこう意味深長な言葉だった。

そんな中で私が小さな胸の痛みとともに心に残った一文を引用。

父は理路整然と、解決に向かってしゃべる。明快に、冷静に、様々なことを難なくこなせる人特有のほほえみさえ浮かべて、しゃべる。

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