著 者:森見登美彦
出版社:朝日新聞出版
出版日:2013年5月21日 発行
評 価:☆☆☆(説明)
森見登美彦さん3年ぶりの長編小説。2009年から2010年にかけて、朝日新聞に連載された同名の作品を全面改稿したもの。私は、新聞連載を欠かさず読んでいたが、全面改稿の「全面」に誇張はなく、全く違う物語に生まれ変わっている。発売に当たって朝日新聞に掲載されたインタビュー記事によると、なんと6回も書き直したそうだ。
主人公は小和田君、京都郊外の化学企業の研究所に勤める若者。夢で「アア僕はもう、有意義なことは何もしないんだ」と呟き、その夢の中でさらに眠ってしまう、という怠け者。同僚たちに「田んぼのタニシと良い勝負」と言われるぐらい、静かな生活を送っている。
そんな小和田君に、タヌキのお面に黒マントの変てこな怪人「ぽんぽこ仮面」が、「自分の跡を継げ」と言って付きまとう。さらに「ぽんぽこ仮面」を捕まえようと、得体のしれない組織が追いかけまわしているらしい。
この「小和田くんに付きまとうぽんぽこ仮面」と「ぽんぽこ仮面を追う謎の組織」という2つの追いかけっこが、絡まりあって物語が進む。そこに可愛らしい探偵助手の「玉川さん」や、やたらと明るい「恩田先輩」とその彼女の「桃木さん」、スキンヘッドの「後藤所長」ら、個性的な登場人物が絡む。もう絡まりあって何だか分からなくなってくる(笑)
この物語は「有頂天家族」と「宵山万華鏡」とつながっている。舞台が祇園祭の宵山の京都、という共通点もあって、雰囲気が「宵山万華鏡」に似ている。つまり「きつねのはなし」から連なる、京都の「妖しさ」が見え隠れする物語。著者お得意の「腐れ大学生モノ」とは別の系統の作品。私はどちらかと言えば、この「妖しい」系統の作品が好きだ。
ファンには周知のことだけれど、著者は体調を崩して休筆していた。復帰作とも言えるこの本が出版されて、私はとても嬉しい。クライマックスにかけてのハチャメチャぶりには、「ちょっとガンバリ過ぎじゃないの?」と心配してしまったけれど、元気になられた証だと思うことにした。
嬉しいお知らせが続く。本書に「森見新聞」というチラシが挟み込んであって、それによると、TVアニメ「有頂天家族」が7月7日から各局で放映開始、「有頂天家族2(仮)」が秋に幻冬舎から、「夜行」が冬に小学館から、それぞれ刊行予定。
(2013.6.18 追記)
この物語を深読みした、深読み「聖なる怠け者の冒険」という記事を書きました。
コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
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