商店街はなぜ滅びるのか

著 者:新雅史
出版社:光文社
出版日:2012年5月20日 初版1刷 9月20日 8刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 親しくしている人の中に、商店街の活性化のために頑張っている人が何人かいる。彼女たちが見たら(多分見ることになるのだけれど)目を剥きそうなタイトルだ。「商店街活性化」には、私も少し関わっている。書店で本書を見た時にはクラクラした。「滅びるのが既定路線かよ?」と、宙に向かってツッコミを入れてしまった。

 例えば、以前読んだ「日本でいちばん元気な商店街」のような例もあるのだ。(ただし、この本については様々な方から教えていただいたり、私も実際に見学に行って、「本には書かれていないこと」もあることが分かった。)

 また、本書のサブタイトルも紹介しておきたい。「社会・政治・経済史から探る再生の道」。つまり、著者も「何とかしたい」と思う一人だったわけだ。「あとがき」に詳しいが、著者の実家は北九州市の酒屋で、15年ほど前にコンビニに転業したそうだ。本書に書かれている「商店街のこれまで」を間近に見て育ち、「これから」を憂える気持ちを、人一倍お持ちなのだろう。

 生意気を言うけれど、本書はなかなかの意欲作だと思う。「商店街」を語る本はたくさんあるけれど、成功事例(集)か調査レポートが多い(「日本でいちばん~」のように)。時間的には「今」、空間的には「商店街と周辺」に限られた狭い範囲の議論に終始している。その点本書は、およそ100年前の商店街の成立に遡り、その後の社会・政治・経済情勢の遷移の中に商店街を位置づけて読み解こうとしている。引用されるデータや書籍・論文の幅広さが、著者の意欲と苦労を物語っている。

 もちろん「いや大事なのは「今、どうするか?」であって、100年前のことはあまり関係がない」という指摘はもっともだと思う。実際読んでいて、とても遠回りをしている感じはした。しかし、今に至る経緯を知らずに議論しても、見当違いなものになる恐れが高い。商店街の凋落の原因がどこにあるのかを探る作業を疎かにしてはならない。

 詳しい内容は本書を読んでもらうとして「なるほど」と思った点を1つ挙げる。本書を貫く「両翼の安定」という考え方だ。これは「雇用の安定」と「自営業の安定」の2つの安定が、戦後日本の社会を支えた、というもの。しかし、現在は「雇用の安定」が最重要課題になり、「正社員」になることが暮らしの安定につながる、という考えが大勢を占めてしまっている。

 私の意見として少し補足すると、今現在存在する「自営業者の経営の安定」を図る(つまりは資金援助をする)政策はたくさんある。しかし「自営業の安定」とは、そういった政策が無くても継続可能な状況を言うはず。はっきり言ってしまうと、今の政策は「自営業の安定」には、害ばかりあって役に立っていない。

 最後に。意欲作なのだけれど残念なこともある。著者自身が「あとがき」で言うように、将来展望を提示する試みが不十分に終わっている。そのため、読み終わった後しばらくすると、タイトル通りに「商店街が滅びる理由」だけが残ってしまう。著者には次作を期待したい。また、私を含めた読者が答えを導くべきなのかもしれない。

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