14.ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

デイルマーク王国史1 詩人たちの旅

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:田村美佐子
出版社:東京創元社
出版日:2004年9月24日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 「ファンタジーの女王」と呼ばれた著者は、今年3月に亡くなった。もう新しい物語を世に送り出してくれることはないのだと思うと寂しいが、幸いにも沢山の作品を遺してくれた。私が未読のものも10作品ほどあるので、これから読み進めて行こうと思っている。

 本書は「デイルマーク」という架空の王国を舞台として、時代と主人公を換えて綴る「デイルマーク王国史」4部作の第1作。デビューから間もない1975年の作品。詩人(うたびと)と呼ばれる、楽器の演奏と歌のショーをして王国内を巡る家族の物語。

 主人公は、詩人の家族の末っ子の少年、11歳のモリル。有名な詩人の父と、母、兄、姉の5人で王国内を馬車で巡る暮らしをしている。詩人は王国内を自由に行き来できる通行手形を持っているので、手紙やニュースも運ぶ。そして時には乗客として人を馬車に乗せて運ぶこともある。
 物語は、王国の北部へ向かうキアランという少年を乗せたことから展開する。馬車で旅する暮らしのため、一家は仕事を分担して休む間もないのだけれど、キアランは手伝う気はないらしい。モリルや兄姉とも仲違いばかりしている。

 実はこの王国は南部と北部に分かれて争っている。シリーズ第1作の本書で、主人公一家を王国の南端に近い街から北部へと旅させることで、そのあたりの事情をうまく紹介している。南北で争っている中を、南部の街から北部へ向かうキアランは当然ワケありなのだ。
 ワケありなのは、キアランだけではない。モリルの父にも母にもそして兄にも、モリルが知らない一面がある。父が持つ弦楽器のクィダーにも秘密がある。王国史4部作の幕開けは、捻りの効いた個性的な登場人物に著者らしさが感じられるが、活躍する子どもたちに声援を送りたくなる、正統派ファンタジーだった。

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メルストーン館の不思議な窓

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:原島文世
出版社:東京創元社
出版日:2010年12月20日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 英国で2010年1月に発表された、著者の最新作。著者の作品は、捻りの効いた展開と辛口のユーモアが持ち味なのだけれど、この作品に限っては、それはちょっと控えで、表紙裏のコピーに「にぎやかではちゃめちゃな魔法譚」とある通り、楽しい物語に仕上がっている。

 舞台は英国の田舎町のメルストーン。主人公はアンドルー。30代の大学の先生。魔術師の祖父から立派な館と財産を相続した。しかし、祖父が死の間際に手渡そうとした紙を受け取りそこなった。そこには、アンドルーが遺産と共に引き継ぐことになった「守護域」というもののことが書かれているらしいのだが..。

 登場人物が個性豊かだ。巨大な野菜を作ることだけに熱心な庭師、いつも不機嫌な家政婦、美人でスタイルもいい秘書、宇宙人?に追い回されてロンドンから逃げてきた少年、その他にもクセのある街の人々がたくさん。そもそも彼らは人間なのか?著者の作品のもう一つの特長の、登場人物には全く別の「真の姿」がある、というトリックは本書でも全開。

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 冒頭に書いた通り、本書は著者の最新作。そして最後から2つ目の作品です。著者は今年の3月26日に亡くなりました。76才でした。「最後から2つ目の作品」としたのは、著者のオフィシャルサイトで、今年の夏の新作の出版予定が明らかにされていたからです。
 以前から体の不調は伝えられていました。邦訳された作品では本書の1つ前の「銀のらせんをたどれば」のレビューで、私は「70代半ばのお年の著者の健康を祈らずにはいられない。美しい「話綱(物語)」を、まだまだ生み出してもらうために。」と書いています。

 著者の訃報は、本書が著者の最新作であることを確かめるために、オフィシャルサイトを訪れて知りました。私は、5月に「魔空の森 ヘックスウッド」のレビューを、著者が亡くなったことも知らずに書いています。訃報を知った時、そのことが何故だか、申し訳なくて、悔しくて...。

 私はこれまで30弱もの著者の作品を読んできました。しかし、幸いなことに著者は40年間も作品を発表し続けてくださったので、まだ読んでいない作品がいくつか残っています。そして新作まで残してくださったそうです。それを大事に読んでいきたいと思います。

 著者のご冥福をお祈り申し上げます。そして数多くの作品を残してくださったことに、感謝を捧げます。

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魔空の森 ヘックスウッド

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:駒沢敏器
出版社:小学館
出版日:2004年12月1日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 ダイアナ・ウィン・ジョーンズさん1993年の作品。著者は、1970年代から現在まで作品を発表し続けているので、これまでの経歴のちょうど中間ぐらいにあたる。著者の作品では、登場人物には全く別の「真の姿」がある、というトリックがよく使われ、捻りの効いた展開と辛口のユーモアが持ち味だ。本書にもそれは言える。

 主な舞台は、ロンドンから40マイルのヘックスウッド農場。主人公はその農場近くのウッド・ストリートで、八百屋を営むステイヴリー家の娘、13歳のアン。彼女は、自分の想像の世界に、「王様」「少年」「囚人」「奴隷」と名付けた友達がいて、彼らと会話ができる。彼らはアンのことを「ガール・チャイルド」と呼ぶ。
 ある時アンは、一風変わった人々が農場へ入っていくのを、立て続けに見る。そして、誰も出てこない、まるで消えてしまったかのように。不思議に思って、農場に踏み入ったアンは、そこでモーディオンという男と出会い、彼が血から少年を生み出すのを目撃する。

 「血から人間を生み出すなんて、黒魔術の話?」と、物語の導入部で不安と期待が入り混じった。しかし、この後はここからは予想しえない展開になっていく。実は「全宇宙をレイナーという名の一族が支配している」という設定で、SFっぽい要素があるかと思えば、お城も騎士もドラゴンも魔法使いも出てくる。
 さらに、時間軸がどうも歪んでいるようなのだ。例えば、モーディオンが生み出した少年は、すぐに10歳ぐらいに成長したかと思えば、また幼くなったり、今度はアンより大きくなったりする。前に起きた出来事の原因が後になってから起きたりもする。

 正直に言って手に負えないと思うぐらい複雑に、ストーリーが交錯している。全く目が回りそうだった。とは言え、時間軸の歪みも、アンの想像の世界の友達にも、物語における重要な意味がある。複雑さに降参してしまわずに、何とかついていけば、本書の楽しみは倍増する。

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グリフィンの年(上)(下)

書影
書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:浅羽莢子
出版社:東京創元社
出版日:2007年11月30日初版
評 価:☆☆☆(説明)

 「ダークホルムの闇の君」の続編。前作では、魔法使いはもちろんエルフやドワーフやグリフィンといったファンタジーの王道をゆく種族や生き物を配してはいながら、実はみんな観光旅行用にそれぞれの役割に応じて、善と悪の戦いなんかを演じている、という王道からはかなり外れたひねりの効いた設定だった。
 本書はそれから8年後の物語。続編には違いないが、前作とのつながりはあまりない。登場人物と舞台の設定を共通にした別の物語。主人公も前作ではダークという名の魔術師だったが、本書はその末の娘のエルダで、前作ではまだ十歳であまり重要な役ではなかったように思う。

 そのエルダが18歳になり、魔術師大学に入学する。同じ教授の指導を受けることになったエルダを含めて6人の学園生活が主な舞台。そのクラスメイトが、北の王国の皇太子、南の皇帝の異母妹、ドワーフ、後の二人は身分を隠していて、どうも訳ありらしい。
 魔術師学校の学園生活、といえばハリーポッターシリーズを思い出すが、だいぶ趣が違う。何と言うかこちらの方はハチャメチャ度がかなり高い。物語前半は小さなヤマをいくつかくり返し、後半に大きなヤマを持って来て一気に大団円。著者のお得意のパターンながら、これが読んでいて気持ちいい。

 登場人物の多さにちょっと戸惑うが、エルダのクラスメイトだけを押さえておけば大丈夫。上にも書いたように続編と言っても別の物語、こちらだけ読んでも楽しめる。

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銀のらせんをたどれば

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:市田泉
出版社:徳間書店
出版日:2010年3月31日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの邦訳最新刊。約200ページと、短編を除けば著者の作品としては短い中編。原題は「The Game」で英国では2007年に出版されている。最近は、過去の作品の邦訳が続いていて、新しい作品は久しぶりだ。

 今回の主人公はハレーという名の少女。両親はなく、ロンドンのはずれにある厳しい祖母と優しい祖父の家で暮らしていたが、あることが祖母の逆鱗に触れて、アイルランドのおばさんたちの家に送られた。
 ハレーには「おばさん」が6人もいて、スコットランドに2人、このアイルランドの家には4人が集まっていて、その子供たちつまりいとこもたくさんいた。原題の「The Game」というのは、この子どもたちがやっているゲームのこと。一種の宝さがしなんだけれど、これがちょっとびっくりするようなものを探してくる。
 ギリシャ・ローマ神話を題材にした登場人物たちと、いろいろな物語がチョコチョコと顔を出す。「宝島」や「アラジン」や「アリス」や「三びきのくま」も。「一つの指輪」も出てきて「はめちゃだめよ!危ないわ!」なんてセリフにニヤリ。結構楽しめた。

 世界には、人間が生み出した物語が、色とりどりの糸や綱になった「話綱」というものがあって、それが複雑に絡み合ってできた「神話層」と呼ばれるものがある、という設定。「話綱」がらせん状になっていることが、邦題の「銀のらせんをたどれば」につながっている。
 物語が糸となるのであれば、著者はさぞかしたくさんの美しくもユニークな輝きの糸を生み出したことだろう。訳者あとがきに「体調がよくないにもかかわらず...」とあったが、70代半ばのお年の著者の健康を祈らずにはいられない。美しい「話綱」を、まだまだ生み出してもらうために。

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キャットと魔法の卵 大魔法使いクレストマンシー

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:田中薫子
出版社:徳間書店
出版日:2009年8月31日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 大魔法使いクレストマンシーシリーズの最新刊。著者の作品は、新作と初期の作品が並行して日本語訳して出版される。初期の作品も面白いのが多いのだが、やっぱり新しい作品は物語の練られ方が違うように思う。
 特にこのクレストマンシーシリーズは、すでに7冊が出版され、魅力的なキャラクターが多く生み出されている。それぞれのキャラクターを奔放に活躍させれば楽しい物語になるわけで、読者としては「あのキャラクターのその後」に再会することができる。

 そして今回の主人公の1人はキャット。シリーズ最初の作品「魔女と暮らせば」で、魔力のある姉と共にクレストマンシー城に引き取られた少年だ。キャットは9つの命を持って生まれた大魔法使いであることが分かり、次期のクレストマンシーとなる。その後、短編には登場したが、長編の主人公になるのは初めて。本書は「魔女と暮らせば」の翌年という設定だ。
 本書のもう一人主人公はマリアン。クレストマンシー城の近くの村に住む、ピンポー家という魔法使いの一族の女の子。物語の半分は彼女を中心に回る。ピンホー家の一族には秘密があり、それが原因となって近隣の一族を巻き込む大騒動へと発展していく。キャットとマリアンは協力して問題の解決に当たるが…という物語。

 キャラクターの話に戻ると、マリアンはもちろん彼女の兄のジョーも新登場のキャラクター。魔法と機械を結びつける才能がある。今回、クレストマンシーのクリストファーの息子ロジャーとの友情も育んだ。またまた魅力的なキャラクターがシリーズに加わったというわけだ。何年か先になるだろうけれど、マリアンとキャットのその後や、ジョーとロジャーの活躍が読めるかもしれないと思うとワクワクする。

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魔法泥棒

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:原島文世
出版社:東京創元社
出版日:2009年8月28日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 またまたジョーンズ作品。これは、1992年の作品。訳者あとがきによれば、ジョーンズが20年以上の歳月を経て、再び大人を読者対象とする長編に挑戦したものだそうだ。児童文学に分類されているとは言え、捻りの効いた展開と辛口のユーモアが持ち味の著者の作品の中で、本書は比較的素直な部類だ。では「大人向き」とされる理由は?

 物語は主に「地球」と「アルス」という場所の2つの舞台で進行する。地球では「裁定評議会」と呼ばれる魔法使いたちが、世界の安定を保っている。アルスは「五国」と呼ばれる並行世界の1つに浮かぶ要塞都市のようなものらしい。そこでは、地球を含めた異世界の監視と、五国の若者の訓練が行われている。
 そして、アルスが地球の科学技術を盗み取っているらしいと気が付いた裁定評議会は、選りすぐりの魔法使いたちをアルスに送り込む。アルスにいるのが男ばかり(後で判明するのだが、訓練中のため禁欲を強いられている)だと知った評議会が送り込んだその襲撃部隊は..この辺りが「大人向け」の所以だ。

 物語の展開が巧みなのはもちろん、並行世界が地球の科学技術を盗むに至る着想が面白い。いわゆる主人公とされる1人の登場人物はなく、地球とアルスを合わせて10人ほどが次々と役割を演じていく。混乱が予想されるところだが、性格付けなどがしっかりしているので、読み進める内にそんな心配はなくなる。「大人向け」ということを考慮して、ちょっと背伸びしたハイティーンぐらいからならいいかなと思う。

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ぼくとルークの一週間と一日

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:大友香奈子
出版社:東京創元社
出版日:2008年8月25日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ジョーンズの初期の作品。オフィシャルファンサイトによると、児童書としては3作目、「うちの一階には鬼がいる!」の次に出版されたものだ。表紙裏に「現代英国児童文学の女王の初期傑作登場。」とあるが、確かにこれは傑作だ。
 ジョーンズ作品は一定の需要が見込めるのだろう。邦訳されていない作品を求めて、ここのところ過去へ遡る傾向が続いている。まだこんな面白い作品が残されているのだから、出版社が邦訳作品獲得に熱心になるのも分かる。

 両親を亡くした主人公デイヴィッドは、大おじのプライス家に引き取られ、普段は寄宿学校に行っている。休暇になると、プライス家に戻らないといけないのだが、それがいやでたまらない。大おじをはじめ、その家の人々が家政婦まで含めて邪険に扱われているのだ。
 そんな境遇を打ち破り、プライス家の人々にひと泡吹かせようと、デイヴィッドがやったことは、デタラメに考え付いた呪いの言葉を高らかに唱えること。なんとも幼稚な思い付きだが、これが本当に効果があったのか、地面が揺れてレンガの塀が崩れる。と、そこに現れたのがルークという名の少年だ。二人はすぐに意気投合し、デイヴィッドが必要とすればルークが駆けつけるという仲になる。

 そして二人は、「降りかかるトラブルを協力して乗り越え」「大人たちをアッと言わせて」「面白可笑しく暮らして..」という展開は児童文学的にはありだが、ジョーンズに限って言えばあり得ない。どうもルークは普通の少年ではないらしい。言動がちょっと常識からズレているし、誰かに追われているらしい。事件の背景には少年の手には負えない大きな出来事があって...

 ジョーンズが描く家族や親戚は一クセも二クセもある。今回の大おじたちも例外ではない。でも訳者あとがきにもあるように、「人は見かけどおりではない」というのが、ジョーンズ作品のメッセージ。今回も悪人だと思っていた人がそうでなかったりで、テンポの良い物語の展開とともに楽しめる。

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魔法の館にやとわれて 大魔法使いクレストマンシー

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:田中薫子
出版社:徳間書店
出版日:2009年5月31日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 久しぶりのダイアナ・ウィン・ジョーンズ、しかもクレストマンシーシリーズの最新刊。シリーズものだから世界観は変わらない。並行世界が12の系列に別れ、そのそれぞれに原則として9つの異世界がある。この世界観がストーリーの源となっているのか、今回もユーモアたっぷりの楽しい作品だった。

 「クレストマンシー」というのは、全部の世界について魔法の使われ方を監視する役職の名前だ。今回の準主人公のクリストファーは、次のクレストマンシーになることが決まっている魔法使い、でもまだ修行中の10代半ばの少年だ。そして、主人公のコンラッドは12歳。2人とも、お金持ちの館に従僕として働きに来た、そしてそれぞれここへは隠された目的があって来ている。
 物語は、高慢な主人一家や執事たちにこき使われながら、従僕として過ごす2人の生活がドタバタと描かれている。いつものように大人たちはみんな1クセも2クセもあるし、若干類型的とは言えユーモアたっぷりのキャラクターたちとの絡みも楽しい。

今回の作品には、終盤にちょっとした大団円は用意されてはいるが、大きな見せ場はない。でも、心配はない「ギリギリでセーフ」を繰り返す2人の少年の行動による起伏と、徐々に新しいことが分かる期待感で充分に読ませるからだ。
 この作品はきっと、後のクレストマンシーであるクリストファー・チャントの人物造型のために、その生い立ちとして少年時代を描きたかったものなのだ。さらに幼いころを描いた「クリストファー魔法の旅」を初めとするシリーズを何作か読んでおいた方が楽しめると思う。いや「クリストファー魔法の旅」を読んだ人には是非読んでもらいたい。彼の成長を楽しめるはずだから。

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うちの一階には鬼がいる!

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:原島文世
出版社:東京創元社
出版日:2007年7月30日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、英国で1974年に刊行された。原題は「The Ogre Downstairs」。著者の初期の作品と言っていいだろう。しかし、ちょっと捻りの効いたユーモア感覚や、暴走気味の子ども達の活躍など、最近の作品のファンにも読み応えがありそうだ。
 主人公の子ども達は、再婚した夫婦のお互いの連れ子5人。お母さんの方に3人(男男女)、お父さんの方は2人(男男)。お互いに「感じ悪い」と思っているし、お父さんは厳格で堅苦しい人で、子ども達はなついていない。親の再婚でできた家庭が舞台、なんてヤヤこしい設定からして著者らしいと思う。

 物語は、お母さんの連れ子の3人、キャスパー、ジョニー、グウィニーの視点で進んでいく。母が再婚して1か月、彼らは、横暴で怒鳴り散らすし、何かにつけて小言を言う新しい父親に早くも辟易している。タイトルにある「鬼」はこの父親のことだ。本書1ページ目に登場し、3ページ目には正体が説明されている。タイトルだけ見ると、ちょっと思わせぶりな感じだけれど、実にあっさりしたものだ。
 その父親が、ジョニーと自分の連れ子の弟の方のマルコムに、化学実験セットを買い与えたところから物語は始まる。この実験セットがなんと魔法の薬品類で、それを使った子ども達が事件を巻き起こす。そして、最初の事件は、開始20ページで早くも起こる。
 導入から1つ目のトピックスまでの早さがこんな感じ。このスピード感は終盤まで続き、次から次へと巻き起こる騒動に、登場人物たちも読者も休む暇がない。とにかく展開にたるんだところがない。
 しかも、これはただのドタバタ劇ではない。ドタバタの中で、子ども達のお互いを見る目に変化があり、あの「鬼」に対してさえ違った見方ができるようになる。再婚によって同居することになった人々による、家族の創生の物語でもある。面白くてイイ話なのだ、本書は。

 解説によると、「普通に暮らしていた子どもが、魔法とそれが引き起こすトラブルに巻き込まれる話」を、「エヴリディ・マジック」の物語というのだそうで、表紙裏の紹介にもこの言葉が使われている。「日常の中の不思議」のような意味合いなのだろう。
 しかし、私は「エヴリディ」を「毎日」の意味で使って「毎日(次々と)起きる魔法(の騒動)」の意味だと、解説を読むまで思っていたし「上手く言い表している」と満足していた。だから用語としては、正しくないのだろうけれど敢えて言う。本書は「エヴリディ・マジック・コメディ」、ニヤニヤ・ゲラゲラ笑えて、しかもイイ話だからオススメ。

(ひとりごと)
 今年のランキングを発表した後に追加するのはどうかと思ったけれど、読んじゃったんだから仕方ないよね。

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