著 者:森見登美彦 原案:上田誠
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年12月16日 初版
評 価:☆☆☆(説明)
久しぶりの森見登美彦さんの「腐れ大学生もの」と思ったら意外と爽やか、という本。
森見登美彦さんの新刊。2018年の「熱帯」1年半あまり。安定したペースで新刊が出て、ファンとしてはとてもうれしい。著者の作品にはいくつかの系統があるのだけれど、本書は「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話大系」に連なる物語。
主人公は京都の大学生である「私」。冒頭に「ここに断言する。いまだかつて有意義な夏を過ごしたことがない」というように、基本的にはダラダラと暮らす腐れ大学生。でも今回は腐れ大学生ながら、後輩の明石さんの映画制作に協力して撮影の手伝いを買って出る。明石さんは映画サークルに所属していて「ポンコツ映画」を量産している。
事件は、明石さんの映画撮影が終わって、銭湯に行って下宿の学生アパート「下賀茂幽水荘」帰ってきた時に起きた。「私」の部屋には、アパートで唯一クーラーがあるのだけれど、そのリモコンが壊れてクーラーがつかなくなってしまった。京都の夏はオーブンの中のような灼熱の夏だ。
そのちょっと前から変だった。下宿に帰ってきたら、皆が待ち構えていて「さっき話してたとおり、裸踊りをやれ」という。なにが「さっき話してた」なのかさっぱり分からない。変なことは他にもある。明石さんが撮影した映像を見返すと、なんと悪友の小津が二人映っている...。
すごくおもしろかった。タイトルに「タイムマシン」とあるように「タイムスリップもの」。まぁドタバタと時間をあっちに行ったりこっちに行ったり。最初は「壊れる前のリモコンを取りに昨日へ..」というちっちゃい話だったのに、どんどんと広がって「全宇宙の崩壊」の危機に..。
すごくおもしろかったんだけど、ちょっとした違和感もあった。時間が行ったり来たりで結構複雑なのに、話がこんがらがらない。いやもちろん、それはいいことだ。しかし、著者のこれまでの作品でも、同じ時間を繰り返したり、物語を入れ子構造にしたり、プロットが複雑なものが時々あるのだけれど、読んでいる私がその複雑さの中で迷子になってしまう、ということがよくあった。(まぁその迷子状態が、むしろ好きだったのだけど)
今回はそういうことがない。そこで何気なく見過ごした表紙の「上田誠-原案」という文字を思い出した。上田誠さんというのは、アニメ「四畳半神話大系」の脚本を担当された劇作家で、本書の原案は上田さんの劇団「ヨーロッパ企画」で上演されていた「サマータイムマシン・ブルース」とのこと。なるほど。舞台で演じているのを見ても分かるぐらいに、プロットが練られていた、ということらしい。
瑛太さん主演、ヒロイン上野樹里さんの映画「サマータイムマシン・ブルース」も観た。こちらも面白かった。
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