著 者:万城目学
出版社:夏葉社
出版日:2022年5月10日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)
横長の変わった装丁に「なんだこれ?」と思ったけど、じわじわと後から愛着さえ湧いてきた本。
万城目学さんのエッセイ集。日本経済新聞や京都新聞に連載したものを中心に、雑誌やオンラインなどその他の媒体に書いたもの加えた、全部で42編のエッセイを収録。初出の時期は2016年から2021年12月まで。
「万感のおもい」というタイトルから引き継いで、「ついでのおもい」「京都へのおもい」「色へのおもい」「あけくれへのおもい」「大阪へのおもい」と「おもい」を5つに分類して編集してある。
冒頭にある「ついでのおもい」の「作家のしあわせ」。初出が2021年10月で、「2021年は暗い1年だった」という一文から始まる。「ほとんど家を出ることなく、ひたすら部屋で執筆を続けた」そうだ。コロナ禍の「自粛」のせいだろう。
しあわせを「状態」と「気持ち」に分けて、自分は「しあわせな状態」だけれど「しあわせな気持ち」を感じることはない、などと言う。私は「万城目さんらしくない」と思う。「暗い1年だった」で書き始めたり、しあわせを分解してぐるぐる思案したりした上にオチもない。コロナの自粛の弊害だと思う。
「京都へのおもい」から「秘境」。著者が大学1回生のころ。自転車で百万遍から銀閣寺、八坂神社を経て清水寺に至るコースを行った。気の向くままに入り込んだ脇道の一つの先に滝があって、素っ裸のおっさんが水垢離をしていた、という話。
「あの日、私はどこに迷い込んだのか/そもそも、本当にあった場所なのか」と結んでいる。著者が行ったコースの東側は、東山連峰の山なので、探せばこの滝のありかは分かるだろう。でも、観光ルートに隣り合わせで「異界」が存在する、京都はそんな場所だと思うので、この一編は好きだ。
他に「京都へのおもい」の「さよなら立て看」の「アホが今日もアホしてる」には同感。「色へのおもい」には意表を突かれっ放し。「あけくれのおもい」はニヤッとさせてくれた。中の尿管結石の話には「ご同輩」と肩をたたきたくなった。「大阪へのおもい」には著者の原点を感じた。
前言撤回。「作家のしあわせ」のオチは「あとがき」でつけてあった。
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