26.万城目学

鹿男あをによし

書影

著 者:万城目学
出版社:幻冬舎
出版日:2007年4月10日 第1刷 5月2日 第4刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 好きな作家は?という質問に、他の作家さんとともに著者の名前を挙げているのに、テレビドラマにもなって著者の出世作、代表作である本書をまだ読んでいなかった。先日、図書館に行った折りに、本棚にあるこの本の赤と黒の文字の背表紙が目の端に留まった。時々こういうことがあるのだが「本に呼ばれた」という感じ。「あんた、俺をまだ読んでないでしょ!」って。

 物語の舞台は奈良。主人公は「おれ」。大学の研究室にいたが、訳あって奈良女学館という女子高の理科の教師として二学期だけという短期間赴任した28歳。胃腸に弱点があり、不安や緊張が高まるとお腹が痛くなる。理由は他にあるのだが、研究室でつけられたあだ名は「神経衰弱」。
 その「おれ」が、赴任の初日から生徒にからかわれる、という前途多難な短い教師生活をスタートさせる。その後、京都と大阪の姉妹高との対抗戦に向けて、剣道部の顧問をすることになったり、鹿に話しかけられたり...!?神経の細い人にはかなり過酷な体験だ。

 面白かった。一番だと思っていた「鴨川ホルモー」よりも面白いと思う。綴られているのは、ヤル気がない訳ではないが熱血でもない教師の、周囲に流されるがままの暮らし。しかし、そこここに笑いあり感動ありのエピソードが配置され、さらにその背景には1800年の歴史がある壮大な物語があった。
 「鴨川ホルモー」も「プリンセス・トヨトミ」も、奇抜な着想が作品を引っ張った感がある。もちろん本書の設定もかなり奇抜だけれど、個々のエピソードとそれを積み重ねた物語の組み立て方が上手く、それが「面白さ」につながっている。そんなわけで、いまさらですが、この本はオススメです。

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かのこちゃんとマドレーヌ夫人

書影

著 者:万城目学
出版社:筑摩書房
出版日:2010年1月25日 初版第1刷 3月10日 第3刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「鴨川ホルモー」や「プリンセス・トヨトミ」で、奇想天外な設定で笑わせたり、呆れさせたりしてくれた著者の次なる作品は、ほのぼのとしてちょっと切ないファンタジーだった。タイトルになっている、かのこちゃんは小学校1年生の女の子、マドレーヌ夫人は外国語を話すメスの赤トラの猫だ。
 かのこちゃんは、お父さんとお母さんと暮らし、犬の玄三郎を飼っている。ある豪雨の日に、マドレーヌはやってきた。そのままかのこちゃん家に住み、玄三郎と夫婦になった!?マドレーヌ夫人が話す「外国語」とは、犬の言葉。正確には玄三郎の言葉が分かる。

 第1章と3章はかのこちゃん、2章と4章はマドレーヌ夫人の視点から描かれている。かのこちゃんの元気さが微笑ましい。かのこちゃんは、難しい言葉で変な響きを持つものが好きだ。「やおら」とか「すこぶる」とか「いかんせん」とか「ふんけーの友(刎頚の友)」とか。
 そんな中で「茶柱」のエピソードは出色だ。かの子ちゃんがもう少し成長していたら、このエピソードは生まれなかっただろう、小1限定と言える。これは「はなてふてふ」とともに、著者のユーモアが垣間見られる部分だ。まぁ、これじゃ何のことか分からないと思うが、詳しい説明は控えるので読んで確かめて欲しい。

 そしてマドレーヌ夫人は、実に優雅で愛情深い。昔から物語に度々登場する「猫の集会」が、この物語でも重要な場面なのだけれど、そこでも一目置かれる存在だ。そして、仲間や玄三郎やかのこちゃんを想う心と行動に心洗われる思いがする。
 対するかのこちゃんもマドレーヌのことを誰よりも理解している。1人と1匹が、人間と猫という関係よりほんの少し近づいた触れ合いを見せる感動物語。本書が属する「ちくまプリマー新書」は、中高生対象の新書シリーズだそうだ。確かに中高生に読んでもらいたい本だ。

(2010.4.17追記)
本好きのためのSNS「本カフェ」でお友だちになった、ひゅうさんに教えていただいたのですが、本書についての著者のインタビューのポッドキャストがありました。なかなか楽しくてためになる話でしたよ。
ラジオ版 学問ノススメ Special Edition 「2010年3月28日放送分」

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プリンセス・トヨトミ

書影

著 者:万城目学
出版社:文藝春秋
出版日:2009年3月1日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「鹿男あをによし」で奈良、「鴨川ホルモー」で京都を舞台に、奇抜な着想で物語を描き出した著者が、次に舞台に選んだのは出身地の大阪だ。さらに詳しく言うと、大阪城の南に位置する急坂の商店街「空堀商店街」。視界さえ開ければ大阪城天守閣が拝めるくらいの距離だ。タイトルの中の「トヨトミ」はもちろん、かつての大阪城の主であった「豊臣家」のことで、「プリンセス」ももちろん「姫」だ。本書は、多くの人がタイトルを見て思ったとおりに「豊臣家の姫」の物語。
 そうは言っても、奇抜な着想が特長である著者のことだから、一筋縄ではいかない。物語はあらぬ方向へ向かい、信じ難い出来事を引き起こしながら、豊臣家の姫の物語に収れんしていく。

 主人公の名前は真田大輔。大阪には信州上田の真田家が好きな人が多い。空堀商店街の近くに真田山という地名があるが、ここは大阪冬の陣の際に真田幸村が真田丸という出城を築いて奮戦した地の跡と言われている。夏の陣での幸村の戦死の地と言われている安居神社では今でも幸村祭が行われる。
 上田の人に聞いたのだが、大阪で上田から来たと言ったら「真田は太閤さんの味方だから」と言っておマケしてもらったそうだ。400年以上前の出来事が今の大阪の人の心に生き続けている。本書では真田家のことは匂わせる程度にしか書かれていないが、このことはストーリーに大きく関わっている。

 表紙は、本書の準主人公である会計検査院の調査官3人が、お堀越しに大阪城天守閣を仰ぎ見る絵だ。実は私はこれとそっくりな構図の大阪城を見たことがある。大阪に出張で深夜にホテルに入って、翌朝の朝食をとったホテルのレストランから間近に見えた大阪城がこんな感じだった。関西に生まれ育っても大阪城を見る機会はそんなにないものだ。その威容にしばし圧倒されたのを覚えている。
 上に書いた「信じがたい出来事」というのは、ある目的を持った仕掛けなのだが、私に言わせれば「大仕掛け過ぎる」。しかし、大阪城のあの威容をいつも感じて、400年以上前の出来事を胸に抱いている大阪の人々なら、これぐらいの空想はアリなのかもしれない。

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ホルモー六景

書影

著 者:万城目学
出版社:角川書店
出版日:2007年11月25日初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

  出版社のWEBサイトによると、18万部を突破し来春に映画公開が予定されている、著者のデビュー作「鴨川ホルモー」の続編ではなく、外伝的な短編集だ。前書の登場人物や周辺人物を主人公とした6編が収められている。それで「六景」。2007年に「野生時代」に毎月掲載されたものだ。

 今回、主人公となったのは、京都産業大学玄武組の女性2人、同志社大学の女性、京都産業大学玄武組と龍谷大学朱雀団のOBとOG、立命館大学白虎隊の女性、昔の京都大学の男性2人、そして我らが「凡ちゃん」の6組。女性が多いのは「ホルモー」という一種異様な競技とのミスマッチがドラマになりやすいからかもしれない。
 前書を読んだ時に、主人公の他2,3人以外は、人物像が殆ど描かれていなくて、ちょっと薄味に感じた。主人公が所属する京都大学青竜会に対する他の大学にも、魅力的なキャラクターの1人や2人いそうなのに、と思った。その点からすると、本書は「我が意を得たり」という感じだ。
 また、著者は本書ではいろいろな趣向を凝らしている。甘酸っぱい青春小説であったり、昭和初期の文豪を登場させたり、400年の時を越える思いを描いたり。著者の引き出しには、まだまだどんなアイデアが出番を待っているのだろうと、読み進める程に期待が高まる。

 だけれども...。読み終わって真っ先に思ったのは「もっと、青竜会の面々の話を読みたかったなぁ」だった。さっき「我が意を得たり」と書いた(言った)、舌の根も乾かぬうちにこんなことを書く(言う)のは、我ながら滅裂だとは思う。
 たぶん「本編で登場したあの人」の話の方が思い入れを持って面白く読めるのだろう。あの人にはこんな隠された物語が..とか、あの事件はこういうことだったのか..とか。だから、本書の私の一オシは、「凡ちゃん」が登場する第二景「ローマ風の休日」だ。「鴨川ホルモー」読者は、この1編だけでも読む価値アリ、オススメだ。

 表紙と章の表紙のイラストに注目。凡ちゃんって、こんなにかわいいのか!
 さらに、もう一言。「凡ちゃん、その井戸の底を照らして覗いてみてよ。カエルがいるハズなんだよ。」(←「有頂天家族」読者へのメッセージ)

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鴨川ホルモー

書影

著 者:万城目学
出版社:産業編集センター
出版日:2006年4月20日第1刷 2007年4月30日第11刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2007年の本屋大賞の第6位。本作でボイルドエッグズ新人賞を受賞して世に出た著者のデビュー作でもある。本屋大賞での受賞を知った時から読んでみたいと思っていたが、タイミングが合わず、今になってしまった。

 舞台は京都の街、登場人物の殆どは大学生、そのまた大部分は京都大学の学生だ。主人公は、サークル勧誘のコンパで知り合った女子に一目惚れした、男子京大生の安倍。彼が入ったそのサークルの名は「京都大学青竜会」。
 普通であれば、こんな怪しげなサークルに入ったりはしないが、彼は、一目惚れした理想の「鼻」の持ち主である早良京子の顔、いや鼻を見たいがために、サークルの例会に顔を出してしまう。

 サークルの名の「青竜」は、北の「玄武」、西の「白虎」、南の「朱雀」に並ぶ東の「青竜」がその名の由来。ご存じの方もおられようが、これらはキトラ古墳の壁画に描かれた四神獣であり、陰陽道に通じる。そして、京都大学は京都の街の東に位置する。ということは、残りの3神獣に対応するグループが存在する、ということだ。
 さて「ホルモー」とは何であるのか、についてはネタバレになってしまうので詳しくは伏せる、青竜会を含む4つのグループで行われるものとだけしておこう。

 「ホルモー」が何であるかが明らかになるまでの前半1/3は、ストーリーがどこへ向かうのか分からないこともあり、平板な感じがする、ちょっとしたユーモアを交えた甘酸っぱい青春小説のようだ。
 しかし、まさかそんな!と言う感じの「ホルモー」の内容が明らかになる中盤以降、スピード感が増して一気に読めるようになる。各賞を受賞したのはダテじゃないのだ。
 まぁ、単なるウケ狙いかと思うところや、強引な展開もある。京都や京大生の内輪話っぽいところもあって、そういうのがイヤな人もいるだろうなぁと思う。しかし、ウケ狙いも結構、これがハマる人もいる。私はどちらかと言えばそのクチだ。
 そして、読み終わった時に改めて気が付く。これは、やっぱり甘酸っぱい青春小説だったのだ。ドシャブリの雨の中「私が好きなのは、あなたなのよ!」と告白する式の図がお好みの方は、是非一読を。笑いと感動をダブルで味わえます。

 多くの人が既に指摘していることではあるが、森見登美彦氏の作品とかぶりまくる。どちらが良いかは、もはや好き嫌いの問題だと思う。敢えて言えば、森見氏の方がキャラクターが濃いか。
 余談ではあるが、森見氏のブログ「この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ」のしばらく前の記事によると、森見氏は氏のお母様から「鹿男あをによし、観てるよ」というメールを受け取ったそうである。「鹿男~」は言わずと知れた、テレビドラマ化された万城目氏のヒット作だ。森見母は最高だ。

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